おちゃらけミクロ経済学: 7月 2013

2013年7月19日金曜日

独占についてあれこれ その2

独占と完全競争を比べてみた!



これまで、いくつか独占に関わる話題を述べてきました。





これらを書きながら個人的には思ったことは、
独占の本当の問題とは、独占企業の生産量が社会的に効率的な量よりも少なく、
価格が限界費用を上回ってしまう
ということです。





Monopoly / elPadawan





独占と完全競争の簡易比較表





従って、独占の問題をよく理解するためには、完全競争と比較してみることです。
そう思いながら、テキストを読んでいたら、こんな表に出会いましたので、
スプレッドシートに落とし込んでおきました。このブログを読んでくださった方の
何かの参考になれば幸いです。



完全競争と独占 簡易な比較







(P450 マンキュー経済学<1>ミクロ編 第15章独占)



【参考文献】


グレゴリー・N・マンキュー マンキュー経済学〈1〉ミクロ編 東洋経済新報社








(「独占についてあれこれ」シリーズ終わり)





2013年7月18日木曜日

独占についてあれこれ その1

独占に対する公共政策について



独占による非効率は、価格差別で、ある程度打ち消すことができますが、
完全に価格差別を行うのは難しい話です。
同じ商品について、顧客の数だけ価格の種類を用意しろ、というのはいかにも非現実的です。


完全価格差別のときの死荷重






そこで、価格差別以外にも独占を阻止する方法がいくつかあります。
今回はいくつかその手段を、ご紹介しましょう。




Limited express "Raicho" / tsuda





独占に対する最良の政策→公有化と価格規制






独占の問題に対して、一般的によく取られる手法は、公有化と規制です。


  • 公有化→政府または政府が所有する企業が財を供給すること


【メリット】
企業の目的を利潤最大化ではなく、広く財が行きわたっていることに設定することができる

【デメリット】
公有企業は民間企業に比べて費用逓減への取り組みが熱心ではない。
政治的利害の道具になりやすい。

【例】
旧国鉄の鉄道事業、旧電電公社の電話サービスなど




  • 価格規制→独占企業が設定できる価格に制限を加えること



【メリット】
企業の目的を利潤最大化ではなく、広く財が行きわたっていることに設定することができる

【デメリット】
財が行きわたるための価格を見つけることが困難。
またその価格設定が、政治的利害の道具になりやすい。

【例】
電気料金、ガス料金など





独占に対する最良の政策→「何もしない」





結局、独占を減らそうとする公共政策には、それぞれに欠点が付きまといます。
そのため、経済学者の中には、政府は「何もしない」ことが最良の政策であることを
主張する人もいます。



下記の記述は、マンキュー経済学〈1〉ミクロ編 から引用していますが、
元々は、ノーベル経済学者のジョージ・スティグラーが、「フォーチュン経済学百科」に
書いた評価が、ソースとなっています(引用の引用ですんません!)。


"「経済学の有名な定理では、競争企業経済が所与の資源のストックから最大の所得を生み出せることを述べている。現実経済のどこにも、この定理の条件を厳密に満たすところはない。すべての現実経済は理想的経済に至らず、その差は『市場の失敗』と呼ばれる。しかしながら私の見るところでは、アメリカ経済の『市場の失敗』の程度は、現実の政治制度にみられる不完全な経済政策から生じる『政治の失敗』の程度よりもはるかに小さい」"


(P442マンキュー経済学<1> ミクロ編 第15章独占 下線は管理人が引きました)





【参考文献】


グレゴリー・N・マンキュー マンキュー経済学〈1〉ミクロ編 東洋経済新報社







2013年7月12日金曜日

もっともうけよう!独占企業の価格差別 その3

完全価格差別は独占の非効率を打ち消す



独占企業が、完全に利潤を最大化させよするためには、完全価格差別という方法があります。
消費者に対して、支払いの意欲額に等しい額を、価格として要求すれば良いのです。




2種類の価格による価格差別






3種類の価格による価格差別






完全価格差別









実際には死荷重を打ち消していく





消費者の数だけ価格の数を設定するのは、実際には難しいことですが、
価格の設定を多くすることは、独占の非効率性を打ち消していくことになります。



2種類の価格差別のときの死荷重





3種類の価格差別のときの死荷重





完全価格差別のときの死荷重







価格差別の種類が多くなるにつれ、死荷重の面積が小さくなっていることが分かります。
「価格が高くて量が少ない」という消費者の不満を、徐々に打ち消していくことになります。



取引による総余剰は、独占企業の生産者余剰によってかっさらわれていますが、
社会全体にとっての損失は少なくなっています。つまり価格差別は社会に
効率性をもたらすというとも言えますね。





Kindle 3 / kodomut





よく使われている価格差別の例





日常生活でも価格差別はよく使われています。
次のような例が考えられるのではないでしょうか?
他にどんなものが挙げられるか、これを読んだみなさんが考えてみてください。


  • 百貨店やスーパーのご優待セール
  • ジェネリック医薬品制度
  • 航空券の早期割引制度



その1であげたハードカバーの本と電子書籍の例も同じですが、
どの例も、商品やサービスの販売を一つ増やしたからといって、
追加的な費用はほとんどかからないというところがミソです。


(「もっと独占利潤を! 価格変動について」シリーズ終わり)





2013年7月11日木曜日

もっともうけよう!独占企業の価格差別その2

価格差別を続けていくとどうなるか?



出版社D社は、さらなる独占利潤を狙って、中身は全く同じですが、
2種類の顧客層に向けて、異なる出版形式で本を販売する予定です。
このD社の行動は、ミクロ経済学で言うと、価格差別と言います。



  • 熱心な読者1万人→ハードカバーで1,500円(1部当たりの利潤が900円)
  • そう熱心でもない読者4万人→電子書籍で700円(1部当たりの利潤が100円)



それぞれのファンは、リアルな出版市場と、webの出版市場の別々に存在するので、
D社は、利潤を1,300万円(900万円+400万円)まで最大化することができます。
別の言い方をすれば、「取りこぼしがなくなる」という感じでしょうか。



出版社D社の2種類のタイプの顧客







3種類の価格差別





今回は、リアルな紙の本と電子書籍の2種類のみの単純な価格差別ですが、
もしD社が3種類の価格差別をできるようになった場合、このようになります。
さらに「取りこぼし」がなくなり、独占利潤は増加します。



3種類の価格による価格差別







無数の価格差別(完全価格差別)





もしD社がこの価格の種類をどこまでも増やしていけるとすれば、
完全に独占利潤を手に入れることができます。このことを完全価格差別
と言います。



完全価格差別






(つづく)





2013年7月10日水曜日

もっともうけよう!独占企業の価格差別 その1

独占企業がさらに儲ける方法



独占利潤を得ている独占企業でもさらなる、利潤最大化を求めたいものです。
そのための方法として、死荷重を取り込んでしまうという考え方があります。



独占市場における死荷重の発生






同じ財でも顧客によって違う価格で売ってしまえば、
死荷重利潤として取り込んでしまうことができます。このことを価格差別と言います。



でも同じ財を顧客によって違う価格で販売することなんてできるのでしょうか?
それはただの差別じゃないんですか?





Kindleの持ち方 / yto





もっとも単純な2種類の価格差別






簡単な例を出してみましょう(左はリアルな本。右はKindle本)。







出版社D社のマーケティング部門は、この本について2つのタイプの顧客がいると考えています。
また、追加的に作成する費用は、1部当たり600円だとします。


  • この著者の熱心なファンの1万人の顧客。1500円までなら支払い許容額
  • それほど熱心ではないが、そこそこ安ければ買う4万人の顧客。700円までなら支払許容額


果たして、D社の利潤は900万円(900円×1万)にとどまってしまうのでしょうか?
本屋の店頭で支払い能力や意欲を、いちいち判定することなんてできないので、
400万円(100円×4万人)は、みすみす見逃してしまうのでしょうか?




紙の市場と電子書籍の市場





しかし幸いなことに、それぞれの顧客グループは、そもそも別の市場に存在します。


  • ハードカバー→リアルな紙の市場
  • AmazonのKindle→電子書籍の市場


熱心な読者は紙の本を買うことに抵抗がなく、
それほでもない読者は、Kindleを通じて電子書籍を購入します。
この状態を作図で表すと次のようになります。



出版社D社の2種類のタイプの顧客





(つづく)






2013年7月5日金曜日

独占と死荷重~独占はなぜ嫌がられるか その2

「嫌がれる本当の意味とは?独占≒税金



前回のブログでは、「独占は非効率である」という、いかにも普通の日本語としても
使えそうな文章を、ミクロ経済学的に解釈してみました。



結果として非効率な生産となってしまう独占市場では、
本来社会で必要とされる量の財やサービスが、供給されないということになります。
かいつまんで言うと、独占市場では、


  • 「生産量が少ない」
  • 「価格が高い」


という消費者にとっては、まったくありがたくない現象が発生します。





STAR WARS Monopoly edition / guiltyx






独占市場は死荷重が発生する





このありがたくない現象は、生産者と消費者による、「有益な取引」の実現を阻害します。
このサイトでは、おなじみの用語でになった、死荷重が発生します。
死荷重というヤツは、次のように視覚的に把握することができます。



独占市場における死荷重の発生








独占による死荷重は経済全体のパイを減らす





「企業が市場を独占する」という言い回しは、いかにも「怪しからん」という感じがします。
それは、生産者が消費者から「不当に利得を搾り取っている」というイメージの
せいかもしれません。



しかし、ミクロ経済学の分析では、これが即、問題となるわけではありません。
「搾り取っている」だけでは、生産者から消費者に向かって、所得の移転が
発生しているだけで、経済のパイそのものを縮小させているわけではないからです。



むしろ独占市場の問題は独占企業の生産量が、
市場の総余剰を、最大化させないために生じることにあります。




独占と税金は同じようなメカニズム





さて、このシリーズのサブタイトルとして、「独占はなぜ嫌がられるか」と付けています。
なぜ嫌がられるかと言えば、独占市場で発生する死荷重が、
政府が行う課税による死荷重の発生と、同じようなメカニズムだからです。



「ぜーきん」と聞いて、「ハイ、よろこんで!」と言える方は
なかなか奇特な方でもあると思いますので。



※もちろん搾り取ることに何らかの公平性の基準が必要。
公平性の概念は、とりわけ難しい問題なので、ここでは取り扱いしません。


(「独占と死荷重~独占はなぜ嫌がられるか」 シリーズ終わり)





2013年7月4日木曜日

独占と死荷重~独占はなぜ嫌がられるか その1

独占利潤が「怪しからん!」理由について



一般的に「企業が独占利潤を得ている」と聞くと、
それはに続く言葉として「怪しからん!」とという言葉が続くことがあります。



では、なぜ「怪しからん!」のでしょう。
ミクロ経済学的に一言で言うと、独占は「非効率だから良くない」ということになります。



ここで言う非効率には、ミクロ経済学において、ちゃんとした定義があります。
もちろん反対語である「効率的」にも、定義がなされています。





Luxury Gold Ring Designs for Golden Jewelry / epSos.de





非効率的→独占市場、非効率的→完全競争市場





それぞれを少しかための言葉を使って定義すると、次のようになります。



  • 効率的→人びとの生活をよくする余地が全く残っていないこと
  • 非効率的→他の人びとの状態を悪化させることなく、ある人の状態をよくできること



別の言葉で言い換えると、非効率的な状態というのは、改善の余地があるということで、
効率的というのは、改善の余地がないということです。



これに独占の概念を付け足せば、
「独占市場は生産について改善の余地が残っている」
ということになります。



「効率的」というのは、完全競争の概念と通じるものがあり、
「完全競争市場は生産を良くするための改善の余地が残っていない」
ということになります。



独占市場の非効率を作図





文字だけでは分かりにくいので、それぞれ作図で示し比較してみましょう。
順不同になりますが悪しからず。



効率的な生産(完全競争市場)





非効率的な生産(独占市場)




両者の違うところは、需要曲線と限界収入曲線の位置関係です。


  • 効率的な生産(完全競争市場)→需要曲線と限界収入曲線は一致する
  • 非効率的な生産(独占市場)→需要曲線と限界収入曲線は一致しない


結果として独占市場では、本来社会で必要とされる量の財やサービスが、
供給されないということになります。


(つづく)