おちゃらけミクロ経済学: 5月 2013

2013年5月16日木曜日

企業はどこまで雇用するか? その6

雇用と賃金は「理論」で決まる!



「自分はあの人より貢献しているのに、なぜ給料は同じなんだ?」
会社や団体などで、働いたことのある方ならば、誰しも思われたことが、
あるかもしれません。



どんなに働いても給料は(ほとんど)同じというのは、
主に2つの考え方から、依拠しています。



1つは、給料は能力や結果の評価ではなく、生活水準を維持するために
支払われているという考え方。このへんの考え方は、カール・マルクスの
資本論 第1巻 Ⅰ (日経BPクラシックス) でよく出てくる考え方です。



本自体は、大変ごっつい書物で時間がかかるので、手軽にその内容を知りたい方は、
池上彰の講義の時間 高校生からわかる「資本論」 をおすすめします。
そちらの方でも大体、同じようなことが書かれています。






Beautiful Red Tomatoes are Healthy / epSos.de




賃金率=労働の限界生産物の均衡価値





どんなに貢献しても、その会社や業界内の中では、給料が同じになってしまうという、
もう1つの理由は、所得分配の限界生産理論に基づくものです。これは労働には労働の、
資本には資本の、土地に土地の各限界生産物の均衡価値が、支払われるというものです。



生産要素のうち、労働を例にとると、労働者に支払われる賃金率は、
限界生産物の均衡価値に等しくなる
というものです。



具体的に、その3で出てきたレタス畑の例で考えてみましょう。
労働者のうち最初の2~3人は、労働市場の賃金率(20万円)を
はるかに超える限界生産物(30~34万円)を生み出しています。




レタス畑の労働の限界生産物価値と利潤最大化








しかし、30~34万円の賃金が支払われるわけではなく、市場の賃金率通り、
20万円しか支払われないというのは、どういうことでしょうか?。




労働市場全体での均衡





レタス畑の他にもトマト畑やキュウリ畑があり、完全競争状態にある各農場主は、
同じ賃金率(20万円)で、労働市場で労働者の獲得にいそしんでいます。



トマト畑の均衡












同じように利潤を最大化させるため、労働者の獲得に精をだしている、
農場主は他に、無数に存在します。



労働市場が均衡していると、現行の賃金率の下、生産者が雇いたいと思う労働者と、
働いても良いと思う労働者の数は、等しくなります。



上の2つのグラフは、個別の労働の個別需要曲線を表します。
これらを水平に足し合わせると、労働市場全体として均衡雇用量と賃金率が、
決まってしまうことを下のグラフでは表しています。




労働市場の均衡







これがどんなに貢献しても、その会社や業界内の中では、
給料が同じになってしまうという、もう1つの理由となります。


(「企業はどこまで雇用するか」シリーズ終わり)











2013年5月15日水曜日

企業はどこまで雇用するか? その5

限界生産物価値曲線から個別需要曲線へ



前々回前回と、レタス畑の労働の限界生産物価値を表してみました。


  • レタスの価格は、1tあたり2万円
  • 従業員に支払う賃金は1人あたり20万円
  • レタス畑を経営している事業者は、無数にいて完全競争市場となっている












この条件に基づくと、レタス畑において利潤を最大化させるための
雇用水準は、5人とということになります。





PhoTones Works #249 / PhoTones_TAKUMA



労働の限界生産物価値曲線について





さて、労働投入量(表の第1列)を横軸、労働の限界生産物価値(表の第3列)を縦軸にとると、
次のような、右下がりの曲線が出来上がります。



労働の限界生産物価値曲線






今回は、賃金率が20万円だったため、最適点はA点となりましたが、
労働市場の変化で、賃金率が10万円のときと、30万円のときの労働投入量を
考えてみましょう。


  • 10万円のとき→8人
  • 30万円のとき→2人


これを労働の限界生産物価値曲線に、プロットします。




労働の個別需要曲線について





上の点2つと賃金率が20万円のときの、3つの点だけを取り出してみると、
こんな感じになります。横軸に労働投入量、縦軸に労働サービスの価格である
賃金率が、表されています。



労働の個別需要曲線






つまり労働の限界生産物価値曲線は、労働の個別需要曲線であるとも言えるのです。
(つづく)

2013年5月14日火曜日

企業はどこまで雇用するか? その4

どの雇用水準で利潤が最大化されるか?



このシリーズでは、完全競争市場における企業は、何人労働者を雇うことで、
利潤最大化をできるか
について、考えています。



前回、登場した下の表の例を用いると、5人というのが正解となります。
ではなぜ、5人ということになるのでしょうか?
表の上と下を見ながら、極端なケースを2つ考えてみましょう。



レタス畑の労働の限界生産物価値







労働者が極端に少ないケースと多いケースについて




労働者を2人雇っているとき。


  • 労働者を増やすべき
  • 限界生産物価値30万円が増加
  • 利潤10万円が増加(30万円‐20万円)



労働者を8人雇っているとき。


  • 労働者を減らす
  • 限界生産物価値10万円が減少
  • 利潤10万円が増加(20万円‐10万円)



限界生産物価値10万円は減少していますが、賃金も1人分節約しているため、
結果的に企業の利潤は、10万円増加します。






レタスチャーハン

レタスチャーハン / yoppy




雇用水準5人が企業の利潤を最大化させる




この方式で、上と下から表を眺めていくと、



  • 5人目の労働者を雇うときは、限界生産物価値が22万円。利潤は2万円増加します。
  • 6人目の労働者を雇うときは、限界生産物価値が18万円。利潤は2万円減少します。



従って、この例で企業が利潤を最大化させるために雇うべき人数は、
上記で述べたとおり、5人となります。



レタス畑の労働の限界生産物価値と利潤最大化






(つづく)

2013年5月13日月曜日

企業はどこまで雇用するか? その3

生産要素の最適生産ルールについて



このシリーズでは、完全競争市場において利潤最大化をはかる企業は
労働者の雇用を、どのように決めているかを考えています。



前回のブログでは、登場した雇用量の最適生産ルールについて、
ポイントを箇条書きにまとめてみました。


  1. 企業の生産の要素は、資本・土地・労働である
  2. 企業は最後に投入する1単位の生産要素の限界生産物価値と、その要素価格が等しくなるまで、各生産要素を投入する
  3. 労働も生産要素なので、2のルールに従う


このうち2が、ゴチャゴチャして、分かりにくいですね~。
具体例を挙げ作表をしながら、分かりやすくしてみましょう。






Lettuce / photofarmer





表でみる労働の限界生産物価値




あなたと私(管理人)は、レタス畑を以下の条件で、共同で経営しているとしましょう。



  • レタスの価格は、1tあたり2万円
  • 従業員に支払う賃金は1人あたり20万円
  • レタス畑を経営している事業者は、無数にいて完全競争市場となっている



レタス畑における、労働の限界生産物価値は、以下の通りとなります。



レタス畑の労働の限界生産物価値






雇用量の最適生産ルールについて





もう一度、上記であげたポイント2を書きます。



2.企業は最後に投入する1単位の生産要素の限界生産物価値と、
その要素価格が等しくなるまで、各生産要素を投入する



このうち、

  • 生産要素→労働
  • 要素価格→賃金率


と読み替えてみましょう。



2.企業は最後に投入する1単位の労働の限界生産物価値と、
その賃金率が等しくなるまで、労働を投入する



すると、レタス畑で利潤最大化をはかる、
あなたと私は、労働者を5人雇おうとするでしょう。



レタス畑の労働の限界生産物価値と利潤最大化






(つづく)

2013年5月8日水曜日

企業はどこまで雇用するか? その2

経済学の法則で決まる雇用量



このブログを読んでくださった方は、自分は何かの会社のオーナー(兼社長)に
なったつもりで考えてみましょう。



前回、あなたの会社では、何を基準にして人を雇うかということを
考えてみました。もちろん適当に決めている訳でも、
政府に強制されて人数を決めている訳でもありません。
ある経済学の法則に、基づいて決まっています。



労働を生産要素ととらえるならば、
労働の限界生産価値と、労働者に支払う賃金が等しくなるまで、
事業主(会社)は労働者を雇い続けます(VMPL=W)



これは、労働サービスだからたまたまそうなったというわけではなく、
ある一般的な完全競争市場のルールに則って、決まってしまうことです。






IMG_4304 / diloz





雇用量の最適生産ルール





利潤最大化を図る価格受容型の生産者は、
最後に投入する1単位の生産要素の限界生産物価値と、
その要素価格が等しくなるまで、各生産要素を投入する
、とされています。



今回の例では、生産要素として労働を用いましたが、
他の生産要素である、資本や土地でも同じことが言えます。



以前、当ブログで、完全競争市場における最適生産ルールというものを考えてみました。




再考 完全競争市場における最適生産ルール






以下ではそのルールを引用します。


1.限界便益(限界収入)(MR) が、 限界費用(MC)と等しくなるまで生産する



マンツーマントレーニングの最適数量






2.限界便益(限界収入)(MR)と限界費用(MC)は市場価格(P)と等しくする


価格受容型企業の最適生産量ルール






すると限界便益(限界収入)(MR)と呼ばれたものは、労働の限界生産価値(VMPL)
限界費用(MC)と呼ばれたものは、賃金率(W)であることが分かります。

(つづく)



【関連エントリ】


完全競争市場 価格は決められるかその2












2013年5月7日火曜日

企業はどこまで雇用するか? その1

「雇う立場」で考えてみる



前回までは、労働者の立場で、余暇と賃金をどのように
組み合わせれば良いか、考えてきました。



今回からは、しばらく立場を替えてみましょう。このブログを読んでいる皆さんは、
自分が会社や団体の社長や理事長などの事業主になったつもりで、
読んでいただければ幸いです。



何かの財やサービスを生産するためには、資本・土地・労働といった
生産要素が必ず必要なため、家計が供給する労働サービスについて、
事業主は非常に関心があります。



あなたは、自分の会社や団体が利潤を最大化させるために、
どれぐらい労働者を雇えばよいか、常に考えています



ただし、売り手(労働者)も買い手(事業主)も数が多く、自らの売買行動では、
価格に影響力を与えられない、価格受容の完全競争状態であることを想定します。






IMG_0011 / David Boyle in DC




事業主のメリット・デメリット





そもそも事業主が、労働者を雇うメリットとデメリットとは、何でしょうか?



  • メリット→追加的な生産物を得られる(便益)
  • デメリット→賃金を払うこと(費用)



さっくり言うと、メリット(便益)がデメリット(費用)を上回るうちは、
事業主は、労働者を雇い続けます。




この便益は、生産物の販売価格をかけることで、お金に換算することができ、
労働の限界生産物価値と言います。


労働の限界生産物価値(VMPL)=P × MPL




労働の限界生産物価値について






このVMPLが賃金Wより大きい限り、事業主は労働者を雇い続けます(VMPL>W)。
そして利潤を最大化するために、労働の限界生産物価値と賃金が等しくなる(VMPL=W)と、
労働者を雇うことをやめます。



これは、ミクロ経済学において一般的なルールで、利潤最大化を図る価格受容型の
生産者は、最後に投入する1単位の生産要素の限界生産物価値とその要素価格が、
等しくなるまで、各生産要素を投入する
、ということを表します。



つまり、労働だけでなく、生産の要素である、土地や資本でも、
この一般的なルールが適用されます。
(つづく)





2013年5月4日土曜日

ブラック労働をするか否か その9

考察~「ブラック」からの脱出方法について



賃金を縦軸、余暇時間を横軸に取り、労働者の満足度を表す無差別曲線
書くと、右上に行けば行くほど、満足度は高くなります。



満足度の高い 無差別曲線マップ







しかし、賃金が下落しているような現状を考えると、
実際のイメージは、こんな感じかもしれません。



満足度の低い 無差別曲線マップ







賃金が下落したら、その人の選好によって、労働時間を多くしたり、
少なくしたりできれば良いのでしょうが、なかなかそれができないことが辛いところです。



世の中に「ブラック企業」「ブラック労働」という言葉が出回るのも、
そんな事情があるのでしょう。



「ブラック」と「資本論」について





そこで今回は、そんな矛盾や悪循環を断ち切るための、
ヒントとなる本を紹介したいと思います。僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?です。



タイトルからして、「ブラック企業」「ブラック労働」の話題と、関係がありそうですね~。
本書は、資本主義経済の原理を表した、
カール・マルクスの資本論 第1巻 Ⅰ (日経BPクラシックス) がベースとなっています。
個人的には、現代日本のサラリーパーソンにとって、必読の書であると考えています。






Karl Marx, painted portrait _DDC2785 / Abode of Chaos





「ブラック」脱出のヒント





本書の第5章(P213)、第6章(P247)には、現代日本の「ブラック企業」「ブラック労働」
サバイブするためのコツが載っています。



これらのコツを列挙することで、おちゃらけミクロ経済学における、
「ブラック」シリーズのシメとしたいと思います。



このシリーズを読んで、「で、どないせーちゅうねん!」と思われた方は、
ぜひ読んでみる価値があると思います。



  1. 世間相場よりもストレスを感じない仕事を選ぶ(P220)
  2. まず「積み上げ」によって土台を作り、その「土台」の上でジャンプする(P232)
  3. 労働力を「消費」するのではなく、「投資」する(P241)
  4. 長期的な資産を作る仕事を選ぶ(P245)
  5. 過去からの「積み上げ」ができる仕事(職種)を選ぶ(P256)
  6. 変化のスピードが遅い業種・職種をあえて選ぶ(P264)
  7. 賞味期限が長く、身につけるのが大変で、高い使用価値のある知識・経験をコツコツ積み上げる(P267)
  8. PLだけでなく、BSも考えて働く(=BS思考)(P286)




(「ブラック労働をするか否か」シリーズ終わり)



【参考文献】


カール・マルクス 資本論 第1巻 Ⅰ (日経BPクラシックス)





木暮太一 ずっと「安月給」の人の思考法 アスコム







2013年5月2日木曜日

ブラック労働をするか否か その8

供給曲線の原理原則とは?




前回のブログで、「賃金率が下落した場合」という仮定の下、余暇時間や労働時間が
どう変化するかについて、考えてみました。



賃金率とひとくちに言っても、属している産業や企業、
また雇用形態などによって、まちまちです。





Welcome To Unemployment / Andres Rueda



自分の頭で考え続けよう





ただ、大切なことは賃金が下落(上昇)しても、反応が一つだけなのではない
というところです。自分の置かれている状況や選好によっては、余暇時間や労働時間を
増減させることは、ごく「自然の流れ」であることです。



別の言葉で言いかえると、



  • 「皆がそうしているから」
  • 「周りがそう言うから」



という理由だけで、思考停止に陥ると、やぶにらみの状態に
走ってしまう可能性があるということです。




必ずしも右上がりの曲線とは限らない労働供給曲線





下の図は、一般的な財と労働サービスの供給曲線の比較です。
一般的な財は、ただ右上がりの曲線です。



それに対して、労働サービスの曲線は、右上がりでもあり、左上がりでもある曲線です
(これを後方屈曲的な個別労働供給曲線と言う)




後方屈曲的な労働供給曲線





後方屈曲的な労働供給曲線





一般的な財は、価格が下がれば、供給量も減少しますが、
労働サービスの場合は、賃金率が下がれば、
必ずしも労働時間が増えるというわけではありません。



「増えるかもしれないし、減るかもしれない。
その人の賃金率や選好による」というのが答えでしょう。



このように、一般的な財と労働サービスの供給は異なるということを、
どこか知識としておけば、ブラック企業やブラック労働の対策に、
役立てることがあるかもしれません。
(つづく)







2013年5月1日水曜日

ブラック労働をするか否か その7

賃金率が下落したときの代替効果と所得効果




ここ数年のはたらく人のお給料の趨勢を見ていると、こんな感じです↓



年収ラボ
国税庁







個別には増えている人もいると思いますが、
全体として賃金が下落しているので、労働時間が一定とすれば、こんな状態が仮定できます。



賃金率の下落






ということは、賃金率下落の効果として2つのパターンが考えられます。
もともと、賃金率が低くて、賃金率が下落したパターンと、
もともと、賃金率が高くて、賃金率が下落したパターンです。





Salaryman / Yuya Tamai





賃金率が低い人の賃金率下落





代替効果が強くなる→余暇時間の増加→労働時間の減少



代替効果が強いときの変化





賃金率が高い人の賃金率下落





所得効果が強くなる→余暇時間の増加→労働時間の減少



所得効果が強いときの変化






(つづく)