おちゃらけミクロ経済学: 11月 2013

2013年11月29日金曜日

寡占市場~繰り返しゲーム その4

しっぺ返し戦略が意味するところとは?



前回では、しっぺ返し戦略利得表が登場しました。
しっぺ返し戦略とは、1回こっきりではなく、
2回以上の長期的な視点に立ったゲームだと思ってください。



ただ、2×2の利得表にまとめられることは、
1回こっきりのゲームである囚人のジレンマと同じです。


しっぺ返し戦略








しっぺ返し戦略を分析





この4つのハコからなる利得表を箇条書きにすると、4つの場合分けができます。
記事を読んでいただいた皆さんは、C社の社長の立場に立ったつもりでお読みください。


1.両社ともに「しっぺ返し」をプレー。両社は180万円の利潤を得る


しっぺ返し戦略(1)




2.P社が「常に裏切る」をプレー、C社は「しっぺ返し」をプレー。
C社は最初の年は200万円の利潤を得られるが、翌年は160万円の利潤しか得られない。


しっぺ返し戦略(2)





3.P社が「しっぺ返し」をプレー、C社は「常に裏切る」をプレー。
C社は最初の年は150万円の利潤しか得られないが、翌年は160万円の利潤を得る。


しっぺ返し戦略(3) 





4.両社ともに「常に裏切る」をプレー。両社は160万円の利潤を得る


しっぺ返し戦略(4) 





しっぺ返し戦略が説く教訓




これらの分析から得られる教訓とは、もし寡占企業同士が長期にわたって、
競争を行うならば、各企業は、ライバル企業を助けるために生産量を制限し、
そのライバル企業の利潤を増加させるように行動することです。
このことを暗黙の共謀と言います。



ライバル企業を助けるなどということは、一見矛盾するようにも聞こえます。
しかし、この暗黙の共謀は、まるで生産量を制限するための正式な共謀が、
あるかのごとく実現します。




Global Water Partnership Global Strategy: 2020 Vision_11 / worldwaterweek





(「寡占市場~繰り返しゲーム」シリーズおわり)








2013年11月28日木曜日

寡占市場~繰り返しゲーム その3

しっぺ返し戦略も利得表に落とし込める!



前回では、しっぺ返し戦略について、
旧約聖書に出てくるような「目には目を歯には歯を」という
言い伝えになぞらえて説明してみました。



しっぺ返し戦略とは、最初は協力的にプレーし、
その後は他のプレーヤーが前の期にとった行動を、
そのまま実行するというゲーム理論の一種です。




Naval War College Current Strategy Forum: Energy and US National / U.S. Naval War College





しっぺ返し戦略と囚人のジレンマの比較





具体的に、プレーヤーはどうするかというと、
次のいずれかのプレーを選択することです。


  • 1年目は「裏切り」、2年目も「裏切り」
  • 1年目は「協力的」、2年目は相手の出方次第



同じくゲーム理論の一種である、囚人のジレンマは、
1回こっきりのプレーであるのに対し、しっぺ返し戦略はゲームを2回行い、
プレーヤーの視点が、長期的であることが特徴的です。




2年分の行動を1つのゲームプレーとみなす




  • 囚人のジレンマ→1回こっきりのゲーム→短期的視点
  • しっぺ返し戦略→複数回のゲーム→長期的な視点



両者を比べてみると、ゲームの回数が異なったり、視点の長さが異なったりしますが、
しっぺ返し戦略の状況も、囚人のジレンマと同じく利得表で分析することが可能です。



しっぺ返し戦略








それぞれの利得は、1年ではなく、2年を視野に入れて計算してますから、
少し見方がややこしいですね~。次の記事でそれぞれ順を追って見ていきましょう。


(つづく)











2013年11月22日金曜日

寡占市場~繰り返しゲーム その2

しっぺ返し戦略とは?



たまに「私企業、民間企業は目先の利潤にとらわれている」という言い方を
聞くことがあります。この言い方の意味するところは、千差万別で
それぞれの方にとって解釈するところが違うでしょう。



しかし、上手く設計された寡占市場で、繰り返しのゲームをしている
寡占企業に限って言えば、「目先の利潤にとらわれている」なんてことはありません。



彼らは短期的な利潤よりも長期的な利潤を重視します
そのことをミクロ経済学では戦略的行動と言います。





Bible / Sean MacEntee




ゲームを繰り返すと戦略的行動に




前々回のシリーズで登場したコーラの需要表を思い出してみましょう。



コーラの需要表






これは1回こっきりのゲームを行ったときの分析をするための利得表でした。
で、今回の記事のポイントは戦略的行動なので、具体的にはゲームを2回行うものと考えます。
(実際は3回以上なんだろうけど、最も単純な戦略的行動を説明するためということで…)



そして、2つの企業の立場で考えるとややこしくなるので、
この記事を読んでくださっている方は、今自分がC社の立場であるとしましょう。




「目には目を歯には歯を」





C社の社長が考える戦略的行動とは、次の2つが考えられます。



  1. 1年目は40,000ℓを生産し、2年目も40,000ℓを生産する
  2. 1年目は30,000ℓを生産し、2年目は相手の出方次第



このC社の戦略的行動を囚人のジレンマ風に言いかえると、
次のようになりますかね。



  1. 1年目は「裏切り」、2年目も「裏切り」
  2. 1年目は「協力的」、2年目は相手の出方次第



2.の「2年目は相手の出方次第」というところが、戦略的行動のポイントですね。



  • もし相手のP社が1年目に「協力的」であれば、C社の2年目は「協力的」に。
  • もし相手のP社が1年目に「裏切り」であれば、C社の2年目は「裏切り」に。



なんだか旧約聖書の「目には目を歯には歯を」という言い伝えのようですが、
このような戦略的行動のことを特に、しっぺ返し戦略といいます。


(つづく)







2013年11月21日木曜日

寡占市場~繰り返しゲーム その1

目先のおカネにとらわれない寡占企業



前回のシリーズで登場した囚人のジレンマでは、
警察にとっ捕まった容疑者達にとって、黙秘をするか、相手を裏切って自白をするかは、
1回こっきりのゲームでした。



司法取引の場合なんかは、そうですよね。
そう何度も共同で犯罪を犯すことってないですもんね(たぶん)


囚人のジレンマ






しかし実際には、ゲームが1回こっきりで終わるなんてことは、あまりないと思います。
何年も同じ市場にいる寡占企業同士であると、何回もゲームをすることになります。




Global Water Partnership Global Strategy: 2020 Vision_6 / worldwaterweek





短期的な利潤より長期的な利潤





1回こっきりの単純なゲームであると、自分が取るべき方針はこれにつきます。



  1. 「相手の行動を見てから自分の行動を決める!」
  2. 「相手の行動が分からない時は、最悪のパターンにはまらないようにする」



1.ができていると利潤を最大化できます
2.ができていると最悪の利潤ではなく、2番目に悪い利潤は得られます。



しかし、ゲームを何回も繰り返しすることが分かっていると、
寡占企業は1回こっきりの短期的な利潤ではなく、
複数回のゲームで得られる長期的な利潤を重視するようになります。



戦略的行動とは




このように長期的な利潤を重視する企業の行動を戦略的行動と言います。
話のオチから言ってしまうと、戦略的行動がが意味するところは、
寡占企業は、あたかも共謀のための正式な協定があたかも存在するかのごとく、
行動してしまう
ということです。



「何でそうなんねん!共謀ってやったらあかんのとちゃうんけ?」
と思われた方がいるかもしれません。



でもそうなるんですよね~(少なくとも教科書レベル(リンク)では)
ただ、その過程は結構、複雑だったりしますので、少しずつ読み解いていきましょう



(つづく)



















2013年11月15日金曜日

寡占市場~囚人のジレンマ その2

実は自分は相手に「支配」されている



前回、利得表を用いて囚人のジレンマについて考えました。



囚人のジレンマ









容疑者A:

「Bが自白するか黙秘をするかはわからん。仮にヤツが自白して
オレ様が黙秘を貫いてしまったら10年の懲役をくらっちまう。
そのことを考えれば、オレ様は自白をしてしまった方が、最悪でも5年の懲役でもすむ」


容疑者B:

「Aが自白するか黙秘をするかはわからんないわ。仮に彼が自白して
アタシが黙秘を貫いてしまったら10年の懲役を言い渡されるわよ。
そのことを考えれば、アタシが自白をしてしまった方が、最悪でも5年の懲役でもすむ」





網走刑務所 / achappe_tmic





相手の行動を考えたのち自らの行動を決める





このように容疑者AとBにとって「自白」か「黙秘」かのゲームの結論は、
両者ともに「自白」ということになりますが、このことを経済学では、支配戦略と言います。



一般的な言い方をすると、支配戦略とは、他のプレーヤーが
どんな行動を選択しようと、ある行動が最適な行動であることを言います。



容疑者達にとって、相手が「自白」をしようが、「黙秘」をしようが、
「自白」をすることが、懲役10年という最悪の事態を避けられるからです。



ゲーム理論の均衡→ナッシュ均衡




A,B両容疑者が「自白」をしたとき、ゲームは均衡に達したことになります。
この例のように、相互依存の状況にある経済主体がそれぞれ、相手の選んだ戦略を
所与として、自己の最適な状況を選んでいることを、ナッシュ均衡と言います。



ちなみに「ナッシュ」とは数学者でノーベル経済学賞受賞者でもある、
ジョン・ナッシュにちなんでいます。下記の参考文献は、彼の伝記を
取り扱った内容で、映画化もされています。



(「寡占市場~囚人のジレンマ」シリーズ終わり)



【参考文献】


ビューティフル・マインド 天才数学者の絶望と奇跡











2013年11月14日木曜日

寡占市場~囚人のジレンマ その1

合理的に考えると刑務所暮らしが長くなる?



ミクロ経済学を学習している方も、学習していない方も、
「囚人のジレンマ」という言葉を聞いたことがあるかもしれません。
「囚人のジレンマ」とは、ゲーム理論のモデルの1つで、次のような特徴を持ちます。



各プレーヤーは、他のプレーヤーがどんな行動をとろうが、
裏切るインセンティブを持つ。他のプレーヤーの犠牲のもとに
自らの便益を得るような行動を取る。



各プレーヤーがともにそれぞれの便益と反する行動を取ると、
それぞれの利得は減少する。





網走刑務所博物館 / sendaiblog





自分の利得を考えて利得が減る?





その囚人のジレンマを利得表で表すと、次のような感じになります。
(テキストによっては黙秘と自白の順番が異なるかもしれないが、意味は同じです)



囚人のジレンマ






もっとも囚人のジレンマは、ゲーム理論の一種であるといいながらも、
結論は決まっています。必ず、どちらの囚人も「自白」をします。
この理由をそれぞれの囚人の立場に立って考えてみましょう。



「自白」することが支配戦略




容疑者A:

「Bが自白するか黙秘をするかはわからん。仮にヤツが自白して
オレ様が黙秘を貫いてしまったら10年の懲役をくらっちまう。
そのことを考えれば、オレ様は自白をしてしまった方が、最悪でも5年の懲役でもすむ」


容疑者B:

「Aが自白するか黙秘をするかはわからんないわ。仮に彼が自白して
アタシが黙秘を貫いてしまったら10年の懲役を言い渡されるわよ。
そのことを考えれば、アタシが自白をしてしまった方が、最悪でも5年の懲役でもすむ」



このように容疑者AとBにとって「自白」か「黙秘」かのゲームの結論は、
両者ともに「自白」ということになります。


(つづく)







2013年11月8日金曜日

寡占市場~相互依存の状況と利得表 その3

利得表の分析で分かること



前回は、「ゲーム理論」における「囚人のジレンマ」について
説明する一歩手前として、簡単な経済モデルにもとづいた
「ゲーム理論」を利得表を作ったところで終わりました。



利得表







利得表の分解





この4つのハコからなる利得表を箇条書きにすると、4つの場合分けができます。


  1. 両社ともに30,000ℓを製造・販売
  2. P社は30,000ℓ、C社が40,000ℓを製造・販売
  3. P社は40,000ℓ、C社が30,000ℓを製造・販売
  4. 両社ともに40,000ℓを製造・販売


この4つの場合分けから得られる、両者の利得(利潤)は次のようになります。



1.両社ともに1,800,000円の利潤


利得表(両社ともに30,000ℓを製造・販売)






2.P社は1,500,000円、C社が2,000,000円の利潤


利得表(P社は30,000ℓ、C社が40,000ℓを製造・販売)





3.P社は2,000,000円、C社が1,500,000円の利潤


利得表(P社は40,000ℓ、C社が30,000ℓを製造・販売)







4.両社ともに1,600,000円の利潤


利得表(両社ともに40,000ℓを製造・販売)






利得表の要約





この利得表から得られる一般的な教訓は、以下の通りです。



  • 両社が低い生産量を選択すれば高い利得(利潤)得られるのに、高い生産量を選択してしまう
  • 高い生産量を選択してしまうのは、もし相手が低い生産量を選択したときに、より大きな利得(利潤)が得られるから
  • 自分の行動は、自分の意思のみで決定するのではなく、相手の行動を見てから決定することになる。





new cola / mtsuruta





(「寡占市場~相互依存の状況と利得表」シリーズ終わり)
















2013年11月7日木曜日

寡占市場~相互依存の状況と利得表 その2

利得表は相互依存の状況を説明する



前回、「囚人のジレンマ」ではなく、その前の一歩手前として、
経済モデルによる簡単な「ゲーム理論」について利得表を用いて言ったので、
それをやりましょう。



イメージするのは、いつぞやのシリーズで登場した
ある町で、コーラの生産・販売にかかわる寡占(複占)市場です。





Coca Cola Collection / The Next Web





複占市場の需要表





確かその町でのコーラの需要表は、こんな感じでしたね。
総需要量が60,000ℓのときに、総収入(総利潤)が360.000円で最も大きくなります。



つまり、この町でコーラの製造・販売を担っている複占企業の
P社とC社は、合計で60,000ℓを供給すれば、
複占市場としての利潤を最大化できることになります。



コーラの需要表





利得表は相互依存の状況を説明する





じゃあ、2つの企業で30,000ℓずつを仲良く分け合って、供給すればいいのでは?
と、考えてしまうかもしれませんが、なかなかそうはいきません。



どうしても、寡占(複占)市場では両者ともに抜け駆けをして、
より多くの生産を行おうとしてしまいます。(理由はコチラ)



この、複占企業のジレンマを分かりやすく、一目で説明できるのが
4つのハコからなる利得表です。詳しいことは、次回のブログで説明しましょう。



利得表



















2013年11月6日水曜日

寡占市場~相互依存の状況と利得表 その1

ゲーム理論、キホンのキホン



前回のシリーズでは、寡占市場のベルトラン行動について考えてみました。
ベルトラン行動とは、次のような考え方です。



寡占市場における企業が他の企業の価格を所与として、
自社の利潤を最大化するように価格を決定すること。



くだけた言い方をすると、ライバル会社が出す値段を決めてから、
自分の会社で販売する商品の値段を決めるというところでしょうか。



不景気なときで、企業の供給能力が過剰なときに、
よく行われる「値段の切り下げ合戦」とも言えると思います。




Tokyo Game Show 2008 / kanegen






ゲーム理論のキホン→「相手の行動を見てから決める」





この「値段の切り下げ合戦」とも言えるベルトラン行動は言い換えると
相手の出方を見て、自分の行動を決めるということになります。
これを相互依存の状況にあると言い、寡占企業は「ゲーム」をプレーしていると言います。



相互依存の状況とゲームの理論






ここで「ゲーム」という言葉を使いましたが、
勘の良い方は、お気づきになったかもしれません。
そうです。この「ゲーム」は、あの「ゲーム理論」で有名な「ゲーム」です



で、その「ゲーム理論」の中でも最も有名な例の1つが、
「囚人のジレンマ」ですね。このモデルも、当ブログを読んでくださる方であれば、
名前を聞いたことがあるかもしれません。





利得表とゲーム理論





ここまで当ブログの話の流れとして、



寡占市場→ベルトラン行動→相互依存→ゲーム理論→囚人のジレンマ



と来ているので、次は囚人のジレンマをやってもいいんですが、
これは、ぶっちゃけ「司法取引」の例なので、話が経済学ではない違う
方向に飛んでしまうかもしれません。



したがって、次回では経済モデルにもとづいた利得表を使って、
相互依存の「ゲーム」のお話をしてみましょう。





【参考文献】


ビューティフル・マインド 天才数学者の絶望と奇跡