おちゃらけミクロ経済学: 2月 2013

2013年2月27日水曜日

利潤ゼロでも事業を続けるワケ その3

真の意思決定は経済利潤にもとづく




さて、ねねさんのネットカフェ事業で利潤を見ていると、
会計利潤経済利潤の2種類があることが分かりました。


  • 会計利潤 = 収入-「目に見える費用」
  • 経済利潤 = 収入-(「目に見える費用」+「目に見えない費用」)


経済利潤の計算式にある、「目に見えない費用」とは機会費用ともいわれます。
機会費用とはその事業のための資源(資本や労働力)を、何か他の用途に使ったときに、
得られた収入を指します。



また、経済利潤は、収入から2種類の費用を差し引くため、
おのずと会計利潤よりも小さくなります。従って両者は次のような関係になります。


  • 会計利潤 > 経済利潤



会計利潤

Finance / Alan Cleaver




会計利潤プラス、経済利潤ゼロ




このように仮に経済利潤がゼロであっても、会計利潤はゼロよりも大きくなります。
ねねさんが委託している会計士は、帳簿に記された「目に見える費用」を計算し、
事業は黒字であることを報告します。


「目に見える費用」と会計利潤


「目に見える費用」と会計利潤



しかし、事業を続けるかどうか最終的に意思決定するのは、ねねさん自身です。
「事業を続けるために、雇われたときにあきらめなければならい給料はいくらだろう?」
仮にその給料を400万円と見積もった場合、経済利潤はゼロとなります。



「目に見えない費用」と経済利潤



「目に見える費用」と会計利潤



利潤とは経済利潤のこと




経済利潤がゼロであるということは、ねねさんにとっては、
「事業を続けても、他の人に雇われても同じ」ということになります。



経済利潤を算定する上で、他に何かの機会費用を見積もれば結論は異なります。
しかし、事業続行の費用と他人からの給料を天秤にかけた限りでは、
ねねさんが、積極的に事業をやめるという理由はなくなります。



これが、「利潤がゼロ」でも事業は続ける、という意味になります。
ミクロ経済学において、利潤というと特に断りがなければ、経済利潤を指します。
(「利潤ゼロでも事業を続けるワケ」シリーズ終わり)




2013年2月26日火曜日

利潤ゼロでも事業を続けるワケ その2

会計利潤と経済利潤と機会費用



企業活動の最大の目的は利潤の最大化なのに、「利潤がゼロ」でも
事業を続けるのはなぜでしょうか?もちろん、「社会的公器」であるとか、
「世のため人のため」という感じに道徳論で、説明を付けられるかもしれません。



ですが、ミクロ経済学の完全競争理論の範囲内で、
「利潤がゼロ」でも、企業が活動を続けていく理由を説明することが可能です。
簡単な例を用いて考えていきましょう。キーワードは次の3つです。


  1. 会計利潤
  2. 経済利潤
  3. 機会費用



費用

Personal Finance / 401(K) 2013



「目に見える費用」と会計利潤




ねねさんは、昨年、知り合いからおカネを投資してもらい、
駅前の貸しビル内で、ネットカフェを開店しました。



そして1年後の現在、昨年の会計収支について知り合いの税理士さんに、
次のように報告してもらいました。


「目に見える費用」と会計利潤



「目に見える費用」と会計利潤



1年目400万円のプラスです。つまり、会計利潤が発生している状態です。
これならば、おカネを投資してもらった知り合いに大しても面目躍如です。



「目に見えない費用」と経済利潤




ところが、人間の心理とは一筋縄ではいかないものです。ねねさんには、気になる点があります。
「自分がこの期間誰かに雇われていたら、いくら給与を支払ってもらえただろうか?」


ねねさんのネットカフェには、ねねさん自身の労働力が投入されています。
もし、ねねさんがネットカフェの事業主ではなく、誰かの従業員として働けば、
得られていた給与があります。



これは、実際に発生した費用ではなく、「目には見えない費用」で、
機会費用とも言われています。その機会費用も考慮すると、経済利潤はゼロになっています。



「目に見えない費用」と経済利潤


「目に見えない費用」と経済利潤



(つづく)




















2013年2月25日月曜日

利潤ゼロでも事業を続けるワケ その1

2種類の利潤と費用



完全競争市場において、企業は2段階の意思決定を経て生産活動を行います。


  1. 生産するかどうか?
  2. いくら生産を行うか?


この2つの意思決定を具体的にいうと、次のような表現になります。


  1. 市場価格が最小の平均総費用より高いか?
  2. 追加的な収入と追加的な費用を一致する生産量はいくらか?


作図で表すと次のようになります。この図は企業の「利潤がゼロ」の状態を表しています。




2種類の意思決定



2種類の意思決定



経済利潤と会計利潤




ところで、企業の「利潤がゼロ」と聞いて、管理人は疑問に感じることがあります。
企業活動の最大の目的は利潤の最大化なのに、なぜ「利潤がゼロ」でも事業を行うのか?
ということです。





DAXspace / DAXKO



利潤と一口にいっても、ミクロ経済学では、実は2種類の利潤に分けられることができます。


  1. 会計利潤・・・収入から「目に見える費用」を差し引いたもの
  2. 経済利潤・・・収入から「目に見える費用」と「目に見えない費用」を差し引いたもの


経済利潤は2種類の費用を差し引いているので、会計利潤より小さくなります。



会計利潤と経済利潤



会計利潤と経済利潤



「目に見える費用」と「目に見えない費用」




それでは、この2種類の費用とは、具体的には何を指すのでしょうか?
主に次のように定義されます。


  1. 「目に見える費用」・・・金銭的支出及び減価償却費
  2. 「目に見えない費用」・・・機会費用


まず、企業活動を行うと、原材料の購入また従業員への給料の支払いや、
価値が少なくっていく設備に対する手当など金銭的な費用が伴います。
これが「目に見える費用」です。



加えてそれらの資源を、今行っている以外の他の用途に使用した場合に、
得られたであろう収入を放棄した分についても、費用として発生します。
これが「目に見えない費用」です。


言葉による説明だけでは、分かりづらいので、次回では表を交えて説明していきましょう。
(つづく)




【関連エントリ】


完全競争市場 利潤のための意思決定 その1






2013年2月20日水曜日

完全競争市場 自由参入と自由退出 その3

短期は「不自然」、長期は「自然」




前回のブログでは時間の観点から、短期長期市場供給曲線の特徴について述べました。
ここで2つの供給曲線を合わせて、特徴を比較をしてみましょう。



短期と長期の供給曲線






  • 短期→傾きが大きい→生産量の伸びに対して価格の上昇幅が大きい
  • 長期→傾きが小さい→生産量の伸びに対して価格の上昇幅が小さい


つまり、自由参入と自由退出の性質を備えた完全競争市場では、
時間の経過とともに、財・サービスの生産量が、伸縮しやすくなるとも言えます。




雪のため通行止め Road Closed Due to Heavy Snow / Yuya Sekiguchi



参入規制は供給の硬直化をもたらす




前々回のブログでは、参入規制の観点から「参入規制あり」
「参入規制なし」市場供給曲線の特徴について述べました。
ここでも2つの供給曲線を合わせて、特徴を比較をしてみましょう。




参入規制ありと参入規制なしの供給曲線





  • 「参入規制あり」→傾きが大きい→生産量の伸びに対して価格の上昇幅が大きい
  • 「参入規制なし」→傾きが小さい→生産量の伸びに対して価格の上昇幅が小さい


つまり、自由参入と自由退出の性質を備えた完全競争市場では、
参入規制の有無で、財・サービスの生産量の伸縮が変わると言えます。



「不自然な状態」と「自然な状態」




前々回前回のブログと合わせると、管理人は次のような印象を感じます。
ここから下の記述は、標準的なテキストには載っていない、管理人独自の考えです。



  • 短期=「参入規制あり」「不自然」
  • 長期=「参入規制なし」「自然」



短期と言われるのは、設備などの固定費用が、文字通り「固定化」されるためですが、
実際には、商売を2年3年と続けていくと、設備も可変費用として「変動化」します。



いつまでも使えない設備を据え置きのまま、というのは、ちょっと考えづらいです…。
「商売あがったり」になるのは目に見えています。使えない設備を据え置きにしておく
ような事業は、撤退するだろうし。



そういわけなんで「設備の固定化」で、短期=「参入規制あり」という状態は、
非常に「不自然」に見えるわけです。もっとも、パソコンのモデルチェンジのように
「半年」ぐらいの期間であれば、それは短期のような気もしますが。
(完全競争市場 自由参入と自由退出シリーズ終わり」)





【参考文献】


八田達夫
ミクロ経済学〈1〉市場の失敗と政府の失敗への対策 (プログレッシブ経済学シリーズ)ミクロ経済学〈1〉市場の失敗と政府の失敗への対策 (プログレッシブ経済学シリーズ)
東洋経済新報社


ミクロ経済学〈1〉市場の失敗と政府の失敗への対策 (プログレッシブ経済学シリーズ)





2013年2月19日火曜日

完全競争市場 自由参入と自由退出 その2

短期と長期の供給曲線




前回のブログでは、完全競争市場において、自由参入と自由退出の特徴が備わっている
理由を考えてみました。今回は、その自由参入と自由退出を前提として、時間の経過による
産業全体の供給曲線を考えていきましょう。



産業全体の供給曲線を時間の経過で区別することは、
一般的にも使われる、「需要と供給の法則」を理解するために、非常に大切な概念となります。
なお、ここでいう時間の経過とは、短期長期の、2つの時間で表すことにします。




市場

Market in Tripoli / David Stanley


短期の供給曲線




短期の供給曲線には、2つの特徴があります。

  1. 固定費用を調整できない
  2. 固定費用が調整できないため、企業数が一定に限られる

個々の企業の供給と、市場全体の供給を合計したものを比べると、次のグラフのようになります。



短期の供給曲線



短期の供給曲線




短期完全競争市場において、個々の企業は限界費用と市場価格が、
等しくなるように生産するので、価格が上昇すれば、個々の企業は、生産量を増加させます。



短期では、市場において企業数が一定に限られています。そのため、
仮に市場全体の企業が1,000社あるとすれば、個々の企業の1,000倍の供給曲線となります。



長期の供給曲線




一方、長期の供給曲線には、2つの特徴があります。

  1. 固定費用が調整できる
  2. 固定費用が調整できるため、企業数が変化する


個々の企業の供給と市場全体の供給を合計したものを比べると、次のグラフのようになります。




長期の供給曲線



長期の供給曲線




長期完全競争市場では、個々の企業は、利潤がゼロになるまで市場に参入したり、
退出したりします。そのため、市場全体の価格は、平均総費用の最小値に等しくなります。



仮に1,000社の企業があったとしてもどの企業も、価格は最小平均総費用に等しくなるので、
右側の市場供給のグラフでは、供給曲線は水平となります。




実際には右上がりの長期の供給曲線




このように長期の供給曲線は、水平になりますが、実際には下のグラフのように
若干、右上がりになります。確かに、多くの財やサービスは、市場価格で
消費者が要求するだけの量を、同じ価格で作ることができます。



しかしリゾートホテルのような、「土地」という限られた資源を投入する財の場合、
資源の獲得競争が発生し、資源が高騰するような財も存在するため、
実際には右上がりの供給曲線になると考えられます。



長期の供給曲線(修正)



長期の供給曲線(修正)



(つづく)






2013年2月18日月曜日

完全競争市場 自由参入と自由退出 その1

自由参入と自由退出の理由



これまでのブログ、




の各シリーズでは、完全競争市場の特徴について述べてきました。
その完全競争市場の特徴とは、以下の通りです。


  1. 価格受容・・・取引に参加する人は自らの売買行動で価格変動を起こすことはできない
  2. 標準的製品・・・取引に参加する財やサービスは需要者からみて差異がない
  3. 情報の対称性・・・取引参加者は取引される財やサービスについての情報を等しく有する


今回は、これら3つの特徴に加えて、完全競争市場のもうひとつの特徴である、
自由参入と自由退出について考えてみましょう。




市場

Market / chany14





自由参入と自由退出の本当の理由




自由参入と自由退出とは、ある生産者が他の生産者を産業から、
人為的に排除することを不可能にすることです。



別の言いかたをすると、個別の企業が市場に参入したり、退出したりすることを、
「放ったらかし」にするということです。



ではなぜ、個別企業が、参入・退出を「放ったらかし」にしておくのでしょうか?
よく、「参入規制の撤廃によって既得権益の打破!」のためと、
難しい言葉を使われることがあります。しかし、これは本質的な答えになっていません。



市場に参入規制を設けない本質的な理由とは、社会全体の余剰が増加するためです。
その理由をイメージで、表現してみましょう。




参入規制がある場合の非弾力的な供給



参入規制がある場合の非弾力的な供給



価格が変化しても供給量はあまり変わらない。供給が非弾力的。



参入規制がない場合の弾力的な供給



参入規制がない場合の弾力的な供給



価格が変化すると供給量が大きく変化する。供給が弾力的。



「得」が「損」を上回る




社会全体の余剰の増加は、参入規制を撤廃すると、得をした経済主体が、
参入規制の利益を失った生産者に対して、補償をしても、まだ余りが出る
ことになります。



市場への参入規制を緩和したり、自由な参入が行われたりすると価格が下がります。
「放ったらかし」が望ましいのは、それに加えて、既存の生産者が被る損よりも、
社会全体に発生する得が大きい
からだと言えます。
(つづく)





【参考文献】


八田達夫
ミクロ経済学〈1〉市場の失敗と政府の失敗への対策 (プログレッシブ経済学シリーズ)ミクロ経済学〈1〉市場の失敗と政府の失敗への対策 (プログレッシブ経済学シリーズ)
東洋経済新報社


ミクロ経済学〈1〉市場の失敗と政府の失敗への対策 (プログレッシブ経済学シリーズ)



2013年2月11日月曜日

完全競争市場 もうちょっと寄り道

フリードリヒ・ハイエクと「完全競争市場」




前回のブログでミクロ経済学の重要概念の一つである、完全競争市場
個人的な「つっこみ」を入れてみました。「つっこみ」の内容は以下のとおりです。


  • 完全競争市場という割には「競争」の余地など存在しない
  • 完全競争市場という考え方には仮定が多く「浮世離れ」している


大学の経済学部卒でもない(もちろん大学院の経済学研究科修了でもない)、
管理人が、あえて重要概念に「つっこみ」を入れたのは、
「タネ本」を仕入れることができたからです。



そのタネ本というのは、参考文献にもあげた、フリードリヒ・ハイエク
市場・知識・自由―自由主義の経済思想というタイトルの本です。
このうち「第三章 競争の性質」を読むと、管理人の「つっこみ」に対して、
ハイエクは、答えを用意してくれています。






ウィーン市内 / PlatonM




「競争」の意味~学問的な意味と一般的な意味




ハイエクによると、ミクロ経済学で使われている「競争」と、一般的に使われている「競争」
まったく違うということを主張しています。



"(スーパーマーケット・旅行代理店・弁護士のように日常の諸問題を解決してくれる)これらの領域における競争が不完全と名づけられる理由は、実際、右の人びと(スーパーマーケット・旅行代理店・弁護士など)の活動の競争的性格と何の関係もない"
(P85 「第三章 競争の意味」)



さらに、同じく第三章の後段を読むと、経済学者が、完全競争市場の理論を成立させるために、
現実の財やサービスを、「規格化」してしまうようなことを、厳に戒めています(P87)。



「完全競争市場」の理論の存在理由




それでは、ミクロ経済学において、完全競争市場の理論は何のために存在するのでしょうか?
その理由を本書に求めると、次の3つくらいにまとめられます。


  • 「完全競争市場」をモデルとするため
  • 食料品や法律サービスのような「不完全な競争市場」と比較するため
  • 「不完全競争市場」を「完全競争市場」に近づけるため


別の言い方をすると、完全競争市場は、需要者(消費者が)より良い財やサービスを、
より安く消費するために、価格という情報を形成するために存在している、と言いたいのです。
ハイエクは、市場における需要と供給の関係において、需要側の立場で物事を考えています。



現実世界では、それほど多くは存在しない、完全競争市場の理論が、
やはり有効であると、ハイエクが考えるのは次の引用文に象徴されています。


"競争は本質的に意見の形成の過程である。(中略)競争は、何がもっとも安いかについて、人びとがもつ見方を創り出す"

(P99 「第三章 競争の意味」)


(「完全競争市場 もうちょっと寄り道」おわり)


【参考文献】




フリードリヒ・ハイエク 市場・知識・自由―自由主義の経済思想市場・知識・自由―自由主義の経済思想 ミネルヴァ書房



市場・知識・自由―自由主義の経済思想




ジェームズ・スロウィッキー 「みんなの意見」は案外正しい (角川文庫)「みんなの意見」は案外正しい (角川文庫)



「みんなの意見」は案外正しい (角川文庫)







2013年2月9日土曜日

完全競争市場 ちょっと寄り道

「完全競争市場」につっこみ



「完全競争市場 価格はきめられるか」シリーズ
「完全競争市場 利潤のための意思決定」シリーズでは、


  • 市場価格・限界収入・限界費用
  • 損益分岐価格
  • 操業停止価格


について、それぞれ説明を述べてきました。ここまでくると、


  • 企業の短期供給曲線
  • 企業の長期供給曲線


の概念を用いて、市場はなぜ均衡するのか?についての説明が可能となります。
つまりいわゆる「需要と供給の法則」で、両者はなぜ一致するのかが分かるようになります。



しかし我ながらブログを書いていて、完全競争という言葉そのものや、
その考え方に「つっこみ」を入れたくなってきました。ここからしばらくは、
ミクロ経済学の標準テキストには、載っていないような「脱線」になります。




マラソン競争

東京マラソン2011 / Kentaro Ohno



つっこみその1 「完全競争」は「競争」をしていない!?




ミクロ経済学の教科書を読むと完全競争市場の定義は、概ね次のようなものです。


  • 価格受容・・・取引に参加する人は自らの売買行動で価格変動を起こすことはできない
  • 標準的製品・・・取引に参加する財やサービスは需要者からみて差異がない
  • 情報の対称性・・・取引参加者は取引される財やサービスについての情報を等しく有する
  • 自由参入と自由退出・・・新規企業の参入や既存企業の退出は自由である


一般的に「競争的」と聞いてイメージするのは、家電量販店の値下げ合戦や、
会社同士のプレゼン競合など個々の企業が、「しのぎを削っている」
イメージがあるかもしれません。



しかし完全競争市場において、個々の企業は、供給する財やサービスは、
全て、同じものとされ、「競争」をする余地は残っていないのです
(市場に「参入するか退出するか」の選択権は与えられているが、競争そのものではない)。



要するに、ミクロ経済学の完全競争市場とは、一般的に競争的と呼ばれる状態ではなく、
企業は価格という情報に基づいて、受動的に行動させられているだけのです。




つっこみその2 仮定が多すぎる!




現実の世界で、完全競争市場として存在するのは、株式市場や穀物市場のような市場です。
これらは、売り手も買い手も、いわばプロフェッショナルが集まる、ごく限られた市場です。



プロの市場は、それでいいのですが、管理人が実際に生活する空間では、
取引される財やサービスについて、売り手も買い手も知り尽くしているものは、
ほとんど存在しない、と感じています。



要するに、完全競争市場という考え方は、
前提となる仮定があれこれ多すぎて、「それで結局どうしろ?」という思いに陥るのです。
(つづく)




【参考文献】


フリードリヒ・ハイエク 市場・知識・自由―自由主義の経済思想市場・知識・自由―自由主義の経済思想 ミネルヴァ書房



市場・知識・自由―自由主義の経済思想





2013年2月8日金曜日

完全競争市場 利潤のための意思決定 その4

撤退の目安は最小可変費用で



前回のブログでは、コーヒースタンドの店を運営する光秀くんが、


  • コーヒーの市場価格 < 193円(損益分岐価格) → 損失を被る


という事態に陥ったとき、どのような意思決定をするべきかを考えてみました。
仮にコーヒーの価格が、「大暴落」して155円になったと想定しています。



このとき、光秀くんは店舗運営を辞めるべきでしょうか?いいえ。辞めるべきではありません。
なぜなら、市場価格は、193円(損益分岐価格)を下回っているものの、
最小平均可変費用(AVC)を、まだ上回っているからです。



光秀くん・コーヒースタンドの費用(6)



光秀くん・コーヒースタンドの費用(6)


市場価格で可変費用を回収できるか?




上の表で注目すべき点は、販売量が200杯のときです。
このときの平均可変費用(AVC)は、もっとも小さく150円になっています。



固定費用が埋没費用(サンクコスト)となる、短期・ ・ の期間において、
市場価格(P) =限界収入(MR)の155円と、最小平均可変費用の150円を比較すると、
前者の方が、まだ上回っています。



従って、「続けるかどうか?」という意思決定については、「続けるべき」という結論が出されます。




スターバックス

スターバックス / yto



損失を最小限にするのも意思決定




「続ける」以上、次に「どれぐらい販売するか?」という意思決定をする必要があります。
このとき、比較するのは、市場価格(P) =限界収入(MR)限界費用(MC)です。



完全競争市場最適生産量ルールに則ると、両者が交差する、
200~300杯の量まで販売することによって、損失を最小化することができます。



コーヒーを販売することによって、コーヒー豆やカップなどの可変費用を回収し、
なおかつ、埋没費用と思われた固定費用が、少しでも取り返せるからです。
(あくまで短期的に・ ・ ・ ・ですが)



光秀くん・コーヒースタンドの費用(7)



光秀くん・コーヒースタンドの費用(7)


撤退の意思決定を行う水準・操業停止価格




それでは、もしコーヒーの「大暴落」が続いたとして、
市場価格が、どの水準になるまで店を続けるべきでしょうか?



それは、やはり平均可変費用(AVC)の価格に注目します。
光秀くんの場合、150円が最小の価格となりますので、
市場価格が、その価格を下回れば、店舗運営をやめるべきとなります。



このときの150円は、コーヒーを販売した場合のコーヒー豆やカップなどの
可変費用すらも回収できない価格です。



俗にいう「売れば売るほど赤字が出る」という状況です。
この価格は、操業停止価格とも呼ばれます。
(完全競争市場 利潤のための意思決定」おわり)





2013年2月7日木曜日

完全競争市場 利潤のための意思決定 その3

市場価格が最小平均総費用より低いとき



前々回のブログで、光秀くんのコーヒースタンドの費用を除いてみると、
次のようになります。彼の店の損益分岐価格は193円となります。



光秀くん・コーヒースタンドの費用(2)



光秀くん・コーヒースタンドの費用(2)


  • コーヒーの市場価格 > 193円(損益分岐価格) → 利潤を得る
  • コーヒーの市場価格 = 193円(損益分岐価格) → 利潤はゼロ
  • コーヒーの市場価格 < 193円(損益分岐価格) → 損失を被る

それでは、市場価格最小平均総費用より低い・ ・とき、
例えば、コーヒーの市場価格が1杯につき、155円であるとしましょう。




昼食はスターバックス

昼食はスターバックス / HIRAOKA,Yasunobu



コーヒースタンドの店を「続けるべきかやめるべきか?」




まず、光秀くんが考えるべきことは、そもそも店を続けるかどうかです。
市場価格(155円)が、店でコーヒーを出すことができる、
損益分岐価格を下回っているので、店を辞めるべきと考えたくなるでしょう。


  • コーヒーの市場価格 < 193円(損益分岐価格) → 損失を被る


しかし、早計は禁物です。この場合、販売数量を少なくすることによって、店を続けるべきです。
実は193円という損益分岐価格をよく見ると、最小平均総費用と等しく、
固定費用最小可変費用の2つに「分解」ができます。


  • 損益分岐価格 = 最小平均総費用 = (固定費用 + 最小可変費用)



固定費用は埋没費用(サンクコスト)




最小平均総費用に含まれている固定費用は、生産量とは無関係に
費用を支払わなくてはなりません。



短期的・ ・ ・に見ると、光秀くんがコーヒースタンドの運営のために投資した
固定費用は、店を続けるかどうかの意思決定については、関係がありません。



このときの固定費用は、意思決定に含まれない、
埋没した費用として、「サンクコスト」と呼ばれます。



市場価格が、損益分岐価格を下回ったときに比較するのは、
市場価格(P) =限界収入(MR)と、平均可変費用(AVC)です。



光秀くん・コーヒースタンドの費用(6)



光秀くん・コーヒースタンドの費用(6)



可変費用の例として、コーヒー豆やカップなどが挙げられます。
これらは、販売を止めることで、費用の調整を行うことができます。


従って、平均可変費用は、店舗運営を続けるかどうか、短期的な・ ・ ・ ・判断に
大きな役割をはたします。
(つづく)





2013年2月4日月曜日

完全競争市場 利潤のための意思決定 その2

市場価格が最小平均総費用より高いとき




前回のブログで、光秀くんのコーヒースタンドの費用を除いてみると、
次のようになります。彼の店の損益分岐価格は193円となります。




光秀くん・コーヒースタンドの費用(2)






  • コーヒーの市場価格 > 193円(損益分岐価格) → 利潤を得る
  • コーヒーの市場価格 = 193円(損益分岐価格) → 利潤はゼロ
  • コーヒーの市場価格 < 193円(損益分岐価格) → 損失を被る



それでは、まず市場価格最小平均総費用より高い・ ・とき、
例えば、コーヒーの市場価格が1杯につき、220円であるとしましょう。






スターバックス

Starbucks Coffee Shibuya Tsutaya / Dick Thomas Johnson



コーヒースタンドの店を「続けるべきかやめるべきか?」




まず、光秀くんが考えるべきことは、そもそも店を続けるかどうかです。
市場価格(220円)が、店でコーヒーを出すことができる、
損益分岐価格を上回っているので、店を撤退するべきではないでしょう。




ここで比較しているのはとしているのは、
市場価格(P) =限界収入(MR)平均総費用(ATC)です。
前者が、後者を上回っているかどうかを基準としています。




光秀くん・コーヒースタンドの費用(3)



光秀くん・コーヒースタンドの費用(3)



「どれぐらい」のコーヒーを販売すれば良いか?




それでは、彼は「どれぐらい」のコーヒーを販売するべきでしょうか?
比較するのは、市場価格(P) =限界収入(MR)限界費用(MC)です。
ここでは、両者が一致する量の、400杯というところに注目します。



両者が一致する量までつくるのは、完全競争市場の最適生産量ルール
もとづくものです。完全競争市場 価格は決められるかその3
400杯まで作れば、光秀くんのコーヒースタンドでは、利潤を最大化できるます。



光秀くん・コーヒースタンドの費用(4)






それで利潤はどれぐらい?




さて「店を続けて、1日当たりコーヒー400杯を販売する」という意思決定をした、
光秀くんは、どれぐらいの利潤を出すことができるでしょうか?
次の計算式で、算出することができます。




(市場価格(P)- 平均総費用(ATC)) × 販売数量
=(220円 - 200円) × 400杯
=8,000円




光秀くん・コーヒースタンドの費用(5)



光秀くん・コーヒースタンドの費用(5)





(つづく)



2013年2月2日土曜日

完全競争市場 利潤のための意思決定 その1

意思決定にもとづく行動




個人でも会社でも、何かの行動をするためには、2種類の意思決定をする必要があります。


  1. 「するかしないか?」
  2. 「どれぐらいするか?」


完全競争市場 価格は決められるかシリーズでは、
完全競争市場において、企業が、利潤の最大化をさせるための活動をおこなうために、
やはり、2種類の意思決定があることを述べました。


  1. 「するかしないか?」→生産1個あたりの費用が市場価格を上回るか?
  2. 「どれぐらいするか?」→利潤が最大化するまで生産できるか?


この2種類の意思決定について、ミクロ経済学の用語を用いるならば、次のようになります。


  1. 「するかしないか?」→最小平均総費用
  2. 「どれぐらいするか?」→最適生産量ルール


ただ、最小平均総費用最適生産量ルールなど、言葉の定義だけをあれこれしても、
非常に分かりにくいものです。ここからは、表やグラフを用いながら、順を追って考えてみましょう。
(言葉の定義については、おちゃらけミクロ経済学用語集をご覧ください)




コーヒースタンド

DSC03471 / ume-y




光秀くんのコーヒースタンドでケーススタディ




光秀くんは、オフィス街でコーヒースタンドを営業しています。周りには、喫茶店、
大手チェーン店のカフェなどが、無数にひしめいて、休憩時にコーヒーを買い求める
お客さんからすると、コーヒーの差異は、全く分からない状態になっています。



つまり、このオフィス街で、コーヒーは標準的製品(コモディティ)であり、
それを扱う無数のお店は、価格を自分で調整できない完全競争市場の企業になっています。



店長である光秀くんは、お店を続けるべきかどうかを、
コーヒーの市場価格とお店の費用を見ながら、常に考えなければなりません。



そんな中、彼のコーヒースタンドの固定費用可変費用の記録を覗くと、
次のようになっていることが、分かります。



光秀くん・コーヒースタンドの費用(1)



光秀くん・コーヒースタンドの費用(1)



「するかしないか?」の意思決定




光秀くんの意思決定のためには、まず常に「するかしないか?」を考えなければなりません。
そこで彼は最初の表に、総費用・平均可変費用・平均総費用・限界費用を書き加えました。



光秀くん・コーヒースタンドの費用(2)



光秀くん・コーヒースタンドの費用(2)




平均総費用が算出されたので、彼のコーヒースタンドの最小平均総費用が分かります。
コーヒーを300杯売ったときの平均総費用が最も低く、193円です。



この193円は損益分岐価格とも呼ばれ、光秀くんのコーヒースタンドは、
次のルールを得ることができます。


  • コーヒーの市場価格 > 193円(損益分岐価格) → 利潤を得る
  • コーヒーの市場価格 = 193円(損益分岐価格) → 利潤はゼロ
  • コーヒーの市場価格 < 193円(損益分岐価格) → 損失を被る

(つづく)