おちゃらけミクロ経済学: 1月 2013

2013年1月31日木曜日

完全競争市場 価格は決められるかその3

経済学における損益分岐価格について



前回のブログでは、完全競争市場における企業が、利潤を最大化させるための、
最適生産量ルールについて述べました。そのルールとは次の通りです。


  1. 限界便益(限界収入)(MR) が、 限界費用(MC)と等しくなるまで生産する
  2. 限界便益(限界収入)(MR)と限界費用(MC)は市場価格(P)と等しくする


価格受容型企業の利潤最大化生産量



価格受容型企業の利潤最大化生産量




見るべきポイントは、最適点としているところです。
最適点とは平行な直線(P=MR)とU字型の曲線(MC)が交わっている点です。
この点は、「最適生産量ルールのその2」を表している点となります。



最適生産量ルールだけでなく費用もお忘れなく




それでは、企業はこの最適点を生産するだけで、良いのでしょうか?
確かに、この最適点までつくることができれば、完全競争企業は、利潤を最大化できるでしょう。



ですが、この視点だけでは、企業は生産の意思決定をできません。
なぜなら、最適生産量ルールだけでは、「どれぐらいの量を生産すべきか」は分かっても、
「そもそも生産をすべきかどうか」、という問題については考慮されていないからです。



この生産すべきかどうかという問題に答えるためには、
利潤最大化と費用その7で登場した、平均総費用の概念を用いることが有効です。
「概念」という言葉を使うと、大層に聞こえるかもしれません。



要は「利潤 = 収入 - 費用」という計算式を成立させるために、
総費用が、総収入より少なくて済むか、ということを考えればよいのです。


  • 総収入(TR) > 総費用(TC)→企業は利潤を得る
  • 総収入(TR) = 総費用(TC)→企業の利潤はゼロ
  • 総収入(TR) < 総費用(TC)→企業は損失を被る



総費用が総収入より少なくて済むかということを考える

Business Neworking Presentation, Paris / alexdecarvalho



「生産物1個当たり」という考え方と損益分岐価格について




ところで、「利潤 = 収入 - 費用」という考え方は、分母に生産量(Q)を置くことで、
生産物1個当たりの利潤を表すことも可能です。


  • 利潤/Q = 総収入(TR)/Q - 総費用(TC)/Q


この式は、総収入(TR)/Q は市場価格(P)であり、総費用(TC)/Q は平均総費用
あることも表すので、


  • 市場価格(P) > 平均総費用(ATC)→企業は利潤を得る
  • 市場価格(P) = 平均総費用(ATC)→企業の利潤はゼロ
  • 市場価格(P) < 平均総費用(ATC)→企業は損失を被る


ということにもなります。このうち、市場価格(P) = 平均総費用(ATC)のとき、
その価格は、損益分岐価格と言われています。


言葉だけで理解するのは難しいと思います。
次回の「完全競争 利潤と意思決定シリーズ」で、図表を交えて、説明していきましょう。
(「完全競争市場 価格は決められるかシリーズ」おわり)


【関連エントリ】


利潤最大化と費用その7
利潤最大化と費用その6
利潤最大化と費用その5









2013年1月30日水曜日

完全競争市場 価格は決められるかその2

完全競争市場における最適生産量ルール



前回の限界分析の原理 「ちょうど」の考え方シリーズでは、企業行動において、
総収入から総費用を差し引いた、純利益を最大化させるための一般法則について述べました。



追加的に総収入を増加させたときにその増分と、
追加的に増加させた総費用の増分が、等しくなるまで行動すればよい、という考え方です。



ミクロ経済学の用語を使うと、次のようになります。言葉だけを使って説明しても、
分かりにくいので、概念図もあげておきましょう。


  • 限界便益(限界収入)(MR) = 限界費用(MC)


マンツーマントレーニングの最適数量


マンツーマントレーニングの最適数量




行動を増やせば増やすほど、儲けが少なくなる限界便益(限界収入)(青点)が、
行動を増やせば増やすほど、手間が余計に増える限界費用(赤点)と等しくなるまで

行動すれば、純利益は最大化するということを表しています。




鈴木みそ『限界集落(ギリギリ)温泉』

鈴木みそ『限界集落(ギリギリ)温泉』 / h_okumura




価格受容型企業の最適生産量ルール




ところで、この最適生産量ルールは正確には、「価格受容型企業の最適生産量ルール」
とも呼ばれ、市場価格と、財の最後の1単位の生産にかかる限界費用と限界収入が、
等しくなるまで生産すれば良いということを表します。計算式で表すと、以下のようになります。


  • 市場価格(P)  = 限界収入(MR)


価格受容型企業の最適生産量ルール








この計算式を図に表すと、いくら生産しようが市場価格(P)は、
まったく同じの水平な直線で、表現されることになります。



価格受容型企業の特徴




つまり、企業が純利益を最大化させるためのルールは、、次の2点に集約されます。


  1. 限界便益(限界収入)(MR) が、 限界費用(MC)と等しくなるまで生産する
  2. 限界便益(限界収入)(MR)と限界費用(MC)は市場価格(P)と等しくする


消費者や需要者からみて差異の分からない製品、いわゆる標準的製品(コモディティ)
扱っている企業は、完全競争市場における企業とも呼ばれ、この2点を守ることが、
純利益を最大化させるのための、必須条件となります。



以下は完全競争市場における、企業の特徴をクルーグマンミクロ経済学からの引用です。


"価格受容型の企業は常に市場価格を与えられたものとして行動する。それは生産物をたくさん販売して価格を下げたり、逆にごく少量を販売して価格を上げたりすることができないからだ。そのため価格受容型の企業にとって、追加的に1単位販売することの限界収入はいつも市場価格になっているのだ"

(P252「第9章完全競争と供給曲線」)


はじめは、とっつきにくい概念かもしれませんが、経済学における超重要概念の一つ
だと思いますので、丸暗記するのも一つの手かと思います(笑)
(つづく)




【関連エントリ】



限界分析の原理 「ちょうど」の考え方その5
限界分析の原理 「ちょうど」の考え方その3
限界分析の原理 「ちょうど」の考え方その2
限界分析の原理 「ちょうど」の考え方その1







2013年1月25日金曜日

完全競争市場 価格は決められるかその1

完全競争市場と独占市場と独占的市場



私たちは、何かモノを作って売ったり、サービスを販売するときには、
必ず、価値の尺度である、価格を決めなければなりません。



この価格を決めるという行為は、簡単そうに見えて、意外と難しいものです。
一般に、「適正な原価に適正な利潤をのせて価格をつける」と言います。
当たり前そうに見える答えですが、この方式では作り手の考え方しか、反映されていません。



「適正な原価に適正な利潤をのせて価格をつける」という価格の決め方は、
「積み上げ原価方式」とも言われます。ですが、この決定方式で価格を決められる
モノやサービスというものは、非常に限られています。



小樽ハイボール コーラ

小樽ハイボール コーラ / yto




市場構造と価格決定権




それでは、具体的に、次の財やサービスの価格について、
生産者が、人為的に決められるかどうか考えてみましょう。


  1. 小麦・ガソリン・DRAMメモリ(半導体)
  2. 電気・都市ガス・上下水道
  3. コーラ・ハイブリッドカー・住宅


答えは以下の通りになります。

  1. 小麦・ガソリン・DRAMメモリ(半導体)→生産者が決められない
  2. 電気・都市ガス・上下水道→生産者が決められる
  3. コーラ・ハイブリッドカー・住宅→どちらとも言えない


結論から先に言うと、価格決定権について、財やサービスによって異なるのは、
財やサービスの市場構造(需要と供給のしくみ)が、異なるからです。



価格を決めずに利潤をあげる




具体例をあげた、財やサービスを市場構造で分けてみると、次のようになります。


  1. 小麦・ガソリン・DRAMメモリ(半導体)→完全競争市場
  2. 電気・都市ガス・上下水道→独占・寡占市場
  3. コーラ・ハイブリッドカー・住宅→独占的競争市場


このうち、冒頭にあげた「積み上げ原価方式」で、企業活動の目的である、
「利潤の最大化」を達成できるのは、独占・寡占市場で活動する企業だけです。
(もっとも単に作れば良い、というものでもありませんが)。



といって1の完全競争市場や3の独占的競争市場で、利潤をあげられない
というわけでもありません。



特に、1の完全競争市場では「自らは価格は決めない」という姿勢を
貫くことによって、利潤を得ることができます。
(つづく)




【参考文献】


菊池正典  半導体工場のすべて  ダイヤモンド社



 半導体工場のすべて



2013年1月20日日曜日

限界分析の原理 「ちょうど」の考え方その5

限界分析の原理とビジネスの基本の関係



前回のブログでは、「やればやっただけ報われたい」、
でも「働き損のくたびれ儲け」になりたくない、という方に向けて記事を書いてみました。



これらの願望をかなえるためには、一般的には「ちょうど」という言葉が、
使われたりします。ミクロ経済学の言葉を使うと、限界分析の原理を用いて、
最適数量を導くということになります。




「ちょうど」・表面張力

Sake - Surface Tension / naotakem



最適数量のルールを探す




この最適数量を探すためには、どうすれば良いでしょうか?
限界分析の原理 「ちょうど」の考え方その2で登場した限界費用の概念と、
限界分析の原理 「ちょうど」の考え方その3で登場した限界便益(限界収入)の概念を
比較すれば良いのです。



家康くんの例を取れば、運動指導をする人数を増やしたときに、
後者が前者をまだ上回っていれば、人数を増やしても、純利益は拡大します。



逆に、運動指導をする人数を増やしたときに
後者が、前者を下回ることになれば、人数を増やしたときに、純損失が拡大します。



マンツーマントレーニングの最適数量のルール


マンツーマントレーニングの最適数量のルール


  • 青い円→人数を増やしたときに純利益が拡大する状態
  • 赤い円→人数を増やしたときに純損失が拡大する状態


つまり、最適数量のルールというのは、
限界便益(限界収入)限界費用が、等しくなるまで生産するということなのです。



「総便益(総収入)= 総費用」との取り違いに注意




最適数量のルールとは、純利益を最大化させるためのルールでもあります。
しかし、限界便益(限界収入)= 限界費用という考え方は、話の順を追って確認しないと、
総便益(総収入)= 総費用と勘違いすることがあります。



総便益(総収入)を会社(営利法人)の言葉で表現すれば、売上高になります。
若手のビジネス・パーソンの方などは、日頃の仕事の関心事として、
つい売上高のみに、興味がいってってしまうことがあります。



ですが、純利益を最大化させるためのルールとして、限界便益(限界収入)= 限界費用
のところを、総便益(総収入)= 総費用に取り違えてしまうと、何の儲けにもなりません。
広く使われている言葉に直せば、「売上高 = 費用」になるので、当たり前すぎる話なのですが。



もし、限界便益(限界収入)= 限界費用という考え方について、
「すごく気になる!」という熱心なビジネス・パーソンの方は、復習がてら関連エントリまでどうぞ!
(限界分析の原理 「ちょうど」の考え方シリーズおわり)




【関連エントリ】


限界分析の原理 「ちょうど」の考え方その1
限界分析の原理 「ちょうど」の考え方その2
限界分析の原理 「ちょうど」の考え方その3
限界分析の原理  「ちょうど」の考え方その4




2013年1月18日金曜日

限界分析の原理 「ちょうど」の考え方その4

「働き損のくたびれ儲け」にならないためのコツ




誰でも働いたら、働いた分だけ報われたいものです。
報われるための手段や、方法(おカネ・モノ・名誉など)とその量は、
人によって異なりますが、そのように思うこと自体は、多くの人に共通することでしょう。



逆に、見出しにあるように、働いても報われないどころか、
「くたびれ損」をするというのは、誰しもやりたがらないことでしょう。



そうは言っても、浮世のならいでどうしても、
「くたびれ損」覚悟で、「働かなければならない」ときもあります。



実は、「働き損のくたびれ儲け」という言い回しは、ブログのタイトルにも使われている、
限界分析の原理と、通じるものがあります。前々回は、限界費用についてのお話でした。
前回は、限界便益(限界収入)についてのお話でした。



そして、この2つの「限界」の考え方を合わせることで、
「働き損のくたびれ儲け」にならないための、コツが分かるようになります。




江戸の浮世

DSCN1772 / t.ohashi



家康くんにとっての「ちょうど」とは




前々回前回のブログで登場した、スポーツジムでマンツーマントレーニングの指導をしている
家康くんの、限界便益(限界収入)限界費用について、考えてきました。



いくら、運動の指導が好きな家康くんといえど、
赤字続きでは、仕事そのものが続けられなくなります。そこで家康くんは、手持ちの分析表に
限界便益(限界収入)限界費用の他に、純利益という項目を加えました。



マンツーマントレーニングの純利益



マンツーマントレーニングの純利益




すると、指導人数が5人目のときの純利益としてプラスになっていますが、
6人目以降は、純損失としてマイナスになっていることが、分かります。
ここから、家康くんが1日当たりに指導する人数は、5人が「ちょうど」であることが、分かります。



「ちょうど」とは最適数量のこと




限界便益(限界収入)限界費用純利益の表について、
グラフにすると、次のようになります。x軸を基準にしてみると指導する人数が、
5人から6人のところで、限界便益(限界収入)限界費用の両曲線が、
交差していることが分かります。



マンツーマントレーニングの最適数量


マンツーマントレーニングの最適数量




細かく計算をすれば、5.○人というところが、「ちょうど」というところでしょう。
ですが、人数はは1人・2人と離散的にしか、数えられないため、5人が、
家康くんにとっての「ちょうど」となります。



このように、「やればやるほど報われたい」、でも「働き損のくたびれ儲け」にはなりたくない
という数量のことを、ミクロ経済学では最適数量といいます。
(つづく)





2013年1月17日木曜日

限界分析の原理 「ちょうど」の考え方その3

限界費用逓増と限界便益逓減はワンセット




前回のブログでは、家康くんのマンツーマントレーニングについての、費用を分析してみました。
今回のブログでは、便益(収入)について考えてみましょう。



家康くんは、マンツーマントレーニングの指導報酬について、
1人ひとりの時間やニーズに合わせて、相対(あいたい)で決めています。
(1回○○○円と決めているわけではありません)。



忙しくても効果的なダイエットトレーニングを、
受けたいと思っている人にとっては、少々高い報酬を支払っても良いと考えるでしょう。



逆に、自由になる時間が多く、ある程度ダイエットについて自分で勉強し、
トレーニングができる人にとっては、それほど高い報酬を支払うことはないでしょう。



スケートの練習

ALG_0496 / nikontino



限界便益(限界収入)の分析



仮に家康くんのお客さんは、マンツーマントレーニングについて、
1回あたり、次のような価格で報酬を支払いたい、と考えているとしましょう。


  • 3,500円が1人
  • 3,000円が1人
  • 2,600円が1人

…etc


すると家康くんの便益(収入)分析は、このようになります。



マンツーマントレーニングの限界便益(限界収入)



マンツーマントレーニングの限界便益(限界収入)



また、この表をグラフにすると、指導の人数を増やせば増やすほど、
Y軸(限界便益)の値が低くなっています。この現象は、限界便益逓減という性質を表しています。
直感的な言葉を使うと、「やってもやっても余計に儲からない」という感じです。



マンツーマントレーニングの限界便益(限界収入)(グラフ)



マンツーマントレーニングの限界便益(限界収入)(グラフ)



限界便益逓増という考え方もある



もちろん、すべての活動において、「やってもやっても余計に儲からない」という
限界便益逓減の状態が、発生するわけではありません。




ミクロ経済学で、いわゆる「独占」と呼ばれる企業では、
「やればやるほど余計に儲かる」という状態が発生します。
(といってもある一定量の販売(生産)に限られており、永遠に続くというわけではありませんが)



また、個人レベルの活動になると、限界便益逓増という現象も見られます。
例えば「便益 = 面白さ」と考えられるスポーツなどは、その典型例です。



最初は、動きもぎこちなく、ゲームをしていてもあまり面白くありません。
しかし体力がついたり、動きに慣れてきたりすると、「面白さ」はプレーする量と比べて、
ずっと大きくなります。




ただし、ミクロ経済学を学習する上では、限界便益(限界収入)逓減の方が、
基本的な考え方になります。しばらくは、前回のブログで登場した限界費用逓増
限界便益(限界収入)逓減とセットで覚えてしまいしょう。
(つづく)




【関連エントリ】


限界費用逓増の法則と微分 その5





2013年1月16日水曜日

限界分析の原理 「ちょうど」の考え方その2

どうすればやりがいを感じられるか?



前回のブログでは、ダイエットの例を用いて、限界分析の原理について考えてみました。
まず限界とは、「端」のことです。そして限界分析とは、この「端」の調整をどうするか?
ということなのです。そして「原理」と付けるのは、「端」の調整について、一定のルールが、
あることを示しています。



前回のブログでは、ダイエットのお手伝いをするスポーツジムについて、
ご紹介をしました。今度は視点を利用者から、インストラクターに変えて、
「どうすればやりがいを感じられるようになるか」について、ミクロ経済学的に考えてみましょう。




インストラクター

佐野選手を指導する松江コーチ / HIRAOKA,Yasunobu



限界費用の分析



家康くんは、健康問題について大変熱心な人物です。
自分で勉強をしてインストラクターの資格を取り、たくさんのスポーツジムで、
マンツーマンのトレーニングを、以下のような条件で実施しています。


  • トレーニングの指導は1人1時間
  • 機会費用は時給1000円(インストラクターをせず別の仕事をしたときに得られる金額)
  • 経費はジム間の移動にかかわるバイクのガソリン代とバイクの修理・維持費
  • ガソリン代は1時間当たり50円で一定
  • バイクは使えば使うほど故障しやすく修理・維持費が追加的に増大していく


すると家康くんのマンツーマンのトレーニングを実施すると、
次のような費用分析が出来上がります。



マンツーマントレーニングの限界費用


マンツーマントレーニングの限界費用



またこの表をグラフにすると、指導の人数を増やせば増やすほど、
Y軸(限界費用)の値が高くなっています。この現象は、限界費用逓増という性質を表しています。
直感的な言葉を使うと、「やればやるほど余計に費用がかさむ」という感じです。



マンツーマントレーニングの限界費用(グラフ)



マンツーマントレーニングの限界費用(グラフ)


限界費用逓増と特化の利益




もちろん、すべての活動において、「やればやるほど余計に費用がかさむ」
という限界費用逓増の状態が、発生するわけではありません。



例えば、トレーニングの内容をマンツーマンではなく、1人の人間に任せるのではなく、
多くのトレーナーを雇うとしましょう。そして、「下半身の筋肉担当者」、「上半身の筋肉担当者」、
「食事の担当者」という具合に役割を特化させると、限界費用は逓増ではなく、逓減します。



これは各担当者1人1人が、それぞれ最も得意とする、指導に特化できるようになり、
特化の利益が、限界費用を減少させるからです。特化による利益は、
いわゆる分業による利益のことです。
(つづく)




【関連エントリ】


規模の経済と規模の不経済その6









2013年1月15日火曜日

限界分析の原理 「ちょうど」の考え方その1

2種類の意思決定について



管理人は、スポーツジムが好きなので、毎日のように通っています。
そのせいか、お店のいたるところに、


  • 「きれいにやせよう」
  • 「余計な脂肪を燃やそう」


という案内が貼り出されているのが、よく目につきます。



いわゆる、ダイエット(商品・サービス)のすすめです。
そのダイエットをするときにみなさんは、「食べるか食べないか?」、
という二者択一の選択をされるでしょうか?



管理人が、図書館や書店の平場で眺めていたり、アマゾンの検索をした限りでは、
そのような方法をオススメしている、ダイエット本をあまり見かけたことはありません。



二者択一の選択でも、ダイエットとして、やってやれないことはないのでしょうが、
後で体重がリバウンドがし来たり、栄養失調に陥るなどして、
ダイエット方法として、とても非効率な方法だと思われます。




ダイエットのためのジョギング

Jogging around the reservoir #1 / Ed Yourdon




「するかしないか?」ではなく「どれぐらいするか?」




もっとも、スポーツジムの案内を、よく読んでみると「きれいにやせたい」、
「余計な脂肪を燃やしたい」という願望をかなえるために、二者択一の選択を迫ることはありません。



「食べるか食べないか?」という選択ではなく、「どれぐらい食べて、どれぐらい消費するか」
という点に、力点(アピールポイント)が、おかれています。


  • 脂肪を減らし、筋肉を減らさないこと
  • 筋肉を活性化させて、基礎代謝量を増やすこと


これらを実践するために、スポーツジムでは、
マンツーマンのトレーニングと専用の食事が用意されています。
(これが「なかなかいいお値段」なので、試したことはありませんが…)



限界分析の原理と最適数量




もちろん、トレーニングや専用の食事は、さまざまな専門家の知見が利用され、
ダイエットの方法として効果が、高いものであると思います。
ですが、最初の発想は、ごく単純な発想だと思います。


  • 「入る」を制して、「出る」を増やす
  • 「入る」と「出る」をちょうどにする(もしくは「出る」の方を少しだけ多めに)


この単純な発想は、ミクロ経済学では、限界分析の原理と呼ばれています。
これは、ある活動の最適な水準は、その活動にかかるコストと効果が、
等しくなる活動水準にある
ことを表した、初歩的な原理です。



運動も食事も、熱量(カロリー)で表すことができます。
ダイエットであれば、それぞれにとって、最適な熱量(カロリー)というものがあります。
実は、この最適という言葉も、ミクロ経済学の世界では、専門用語の一つです。



限界分析「限界」という概念は、使い慣れていないと、少し分かりにくいものです。
当ブログでもたびたび登場していますが、この限界分析の原理のうち、
まずは限界分析の概念について、復習がてら明らかにしていきましょう。
(つづく)




【関連エントリ】


限界費用逓増の法則と微分 おまけ



2013年1月10日木曜日

規模の経済と規模の不経済(おまけ)

規模の経済と技術進歩・スクウェアの事例から









「規模の経済と規模の不経済」シリーズは、その6で終わるつもりでした。
しかし、週刊 東洋経済 2013年 1/12号週刊 東洋経済 2013年 1/12号 [雑誌] で、その応用を用いている企業が紹介されています。
その企業とは、ジャック・ドーシー率いる、スクエアです。



スクエアは、スマホ(携帯端末)のイヤホンジャックに、
「スクエア・カード・リーダー」を差し込むだけで、クレジットカードによる決済を可能にした、
技術進歩を起こした会社です(YouTube参照)



小規模店舗や個人事業主など、従来のクレジットカードでは手数料が高くて、
カード決済ができなかった層を中心に、サービス開始から3年弱の間で、
100億ドルもの決済額
を達成しています。



もう一度おさらい・規模の経済について




「規模の経済と規模の不経済」シリーズでは、
企業活動の要である、利潤について「利潤 = 総収入 - 総費用」と定義します。
次に、総費用に含まれる固定費用を調整し、利潤の最大化をはかるというテーマでした。
具体的には、以下のような考え方で、平均総費用を低く抑えて利潤を確保します。


  • 大量生産が見込める→高い固定費用と低い可変費用で対応
  • 大量生産が見込めない→低い固定費用と高い可変費用で対応


生産期間に「長さ」がある場合、最初に投入する固定投入物の量(固定費用)を多くし、
長期的に平均総費用を低下させる状態のことを、規模の経済といいます。
いわゆる、「作れば作るほど(売れば売るほど)儲けの幅が大きくなる」という状態です。



逆に、生産期間に「長さ」があり、最初に投入する固定投入物の量(固定費用)を多くしても、
長期的に平均総費用を上昇させている状態のことを、規模の不経済といいます。
いわゆる、「作れば作るほど(売れば売るほど)儲けの幅が小さくなる」という状態です。



固定費用が低いのに大量生産できるスクウェア




スクウェアのミッションは、今までカード決済について手つかずだった層に、カード利用を促し、
人々に「新しい体験(週刊 東洋経済 2013年 1/12号週刊 東洋経済 2013年 1/12号 [雑誌]P41)」をしてもらうことです。




具体的には、現在、アメリカには800万か所のクレジットカード利用店舗がありますが、
中小2,600万か所の店舗には、まだカード決済ができません。これら中小の店舗に、
スクウェアが開発したカードリーダーを、行き渡らせなければなりません。



そこで、同社は小売事業者に対して、カードリーダーを無料で配り、
決済手数料を1回につき利用額の2.75%(もしくは月額275ドルの使い放題)という、
「低額」にして利用者の増加をはかっています。スクウェアは、生産のための可変費用を、
低く抑えているのです。



一方で、スクウェアの現在のミッションを、ミクロ経済学の言葉を使って表すと、
「大量生産・大量消費」のモデルです。このモデルで利潤をあげようと思うと、
最初に「高い固定費用」が必要です。つまり、開発や研究などの初期投資が、膨大となります。



しかし、スクウェアでは、カードリーダーの開発・普及のために、「低い固定費用」を採用しています。そのため、技術進歩の恩恵に浴した方法で、「費用のかからない」研究・開発投資を行っています。



開発スペースは公共施設。試作品は自作




スクウェアは、「低い固定費用」での研究や開発を実現するために、サンフランシスコにある
市民用に開放された、工作スペースで機械を動かし、試作品を自作しています。



このような工作スペースは、日本ではまだ認知度が低いようですが、
FabLab(ファブラボ)と呼ばれ、鎌倉市などで活動しています。
FabLab鎌倉のWebサイト


かつては、高価すぎて政府機関や大企業など、限られた人間にしか、触れなかった工作機械が、
技術進歩の恩恵を受けて、個人でも支払える費用で、「公共スペースにおけるモノづくり」が、
できるようになっています。(巷間、うわさされている「3Dプリンタ」の低価格機種は13~14万円)




工作機械 / HIRAOKA,Yasunobu



ミクロ経済学でいう技術進歩とは?



それでは、規模の経済規模の不経済という考え方は、ミクロ経済学の考え方から
なくなるのでしょうか?管理人は、決してなくならないと思います。



むしろ、スクウェアのような現象は、技術進歩という概念で、説明ができます。
当ブログの参考文献の一冊である、マンキュー経済学〈1〉ミクロ編マンキュー経済学〈1〉ミクロ編 では、
技術進歩を次のように定義しています。


 "科学者や技術者が新しくてより良い方法を絶えず見出している(方法)"
(P531)


スクウェアは、工作機械の技術進歩の恩恵に浴して、安価なカード決済の普及につとめます。
そのカード決済の技術進歩を受けて、また別の事業者が、「高い固定費用」「低い固定費用」に変え、新たな技術進歩を遂げます。



規模の経済規模の不経済という概念は、相変わらず残りますが、個々のサービスや製品に
おいては、スクウェアのような「技術進歩」のサイクルが、繰り返されると思います。



ジャック・ドーシーtwitterの創業者であり、2013年1月現在同社の会長も務めている。



【関連エントリ】


読書感想文で世の中を分析する バイオパンク-DIY科学者たちのDNAハック
読書感想文で世の中を分析する MAKERS―21世紀の産業革命が始まる
規模の経済と規模の不経済その6
規模の経済と規模の不経済その5
規模の経済と規模の不経済その4
規模の経済と規模の不経済その3
規模の経済と規模の不経済その2
規模の経済と規模の不経済その1



【参考文献】


週刊 東洋経済 2013年 1/12号 [雑誌]週刊 東洋経済 2013年 1/12号 [雑誌]


週刊 東洋経済 2013年 1/12号 [雑誌]



田中浩也
FabLife ―デジタルファブリケーションから生まれる「つくりかたの未来」 (Make: Japan Books)FabLife ―デジタルファブリケーションから生まれる「つくりかたの未来」
オライリー・ジャパン

FabLife ―デジタルファブリケーションから生まれる「つくりかたの未来」


2013年1月9日水曜日

規模の経済と規模の不経済その6

規模の経済と取引費用の問題



藤吉郎くんの、ソフトクリーム2号店における販売(生産)の条件は、次の通りです。

  1. 販売価格は常に同じ
  2. 費用は常に低くする
  3. 利潤が最も大きくなる生産量を見つける
  4. 「長期的」な猶予が与えられている

一方で、藤吉郎くんは、1日あたりの需要予測として、以下の仮説を立てています。


  1. 2号店の開店直後は、1号店とほぼ同じ需要が見込める
  2. ただし、2号店の近くで大学のキャンパスが新設され需要が増加する見込み


そこで藤吉郎くんは、「時間」「販売(生産)の増加見込み」
キーワードとして、「高い固定費用」をかけ、長期平均総費用を低下させました。
このことを規模の経済といいます。





ピン

ピン / i-eye



分業と規模の経済



それでは、このシリーズのタイトルにも使った、規模の経済は、何が要因で
発生するのでしょうか?それは、生活水準の上昇によって、自給自足の経済から、
労働者間での分業が、可能となった経済に発達したために、起こると考えられています。


"すべての仕事を1人でやろうとする者は、通常どの仕事も結局うまくできない。雇用した労働者に最大限の生産性を発揮してほしいと願うとき、企業は労働者に限定した範囲の仕事を割り当て、その限定された仕事に熟練してもらう場合が最もよい場合が多い"
(マンキュー経済学 第2版 ミクロ編 P378「第13章生産の費用」)


規模の経済によるメリットを最大限生かした古典的な例は、「国富論」の著者として
有名なアダム・スミスが視察した、ピン工場における、ピンの大量生産です。
この工場では、それぞれの労働者が、生産の各工程において、


  • ワイヤーを取り出す係
  • ワイヤーを引き延ばす係
  • ワイヤーを切る係
  • ワイヤーの先端をとがらせる係
  • ワイヤーの先端を研磨する係
  • ピンの頭部を作る係
  • 研磨されたワイヤーにピンの頭部を取り付ける係
  • 完成品を紙袋に入れる係
etc

など、分業がしかれています。スミスは、もし、各労働者が全ての工程を、1人で担当すると、
1日あたり20本のピンを生産するのも難しいとしています。



しかし、視察した工場では、各労働者が、分業を行うことによって、
1日4,800本ものピンを生産していると述べています。



取引費用と規模の不経済



もっとも、このような分業は、企業が労働者を多数雇用し、
大量生産を行っている場合にのみ実現が可能です。
そもそも、大量生産の前に、大量消費(需要)が見込めるかどうか、ということも重要です。



もし、大量生産がすでに実現している、または大量消費は見込めないなど、
生産水準がすでに高い状態にあるときには、固定費用の拡散効果よりも、
可変費用の収穫逓減効果が強く作用し、長期の平均総費用は上昇
します。
これを規模の不経済と呼びます。



規模の不経済が発生しているとき、すでに生産規模の拡大によるメリットは失われています。
企業内における「調整」の問題が、発生しています。生産規模の拡大が組織を複雑にさせ、
情報の伝達に関わるコスト(取引費用)の発生によるデメリットが、顕在化しています。



もちろん、企業が最終的な意思決定をするかどうか、費用曲線だけでは分かりません。
企業の活動目的は、「利潤 = 総収入 - 総費用」の計算式で示されているように、
総収入を増やすことも、利潤の最大化につながるからです。



ですが、次の「完全競争と供給」シリーズでは、やはり企業の費用曲線には、
重要な意味が隠されていることが分かります。
(規模の経済と規模の不経済おわり)



【関連エントリ】


読書感想文で世の中を分析する 企業・市場・法
読書感想文で世の中を分析する 組織の限界



【参考文献】


国富論 国の豊かさの本質と原因についての研究(上)国富論 国の豊かさの本質と原因についての研究(上)


国富論 国の豊かさの本質と原因についての研究(上)


国富論 国の豊かさの本質と原因についての研究 (下)


国富論 国の豊かさの本質と原因についての研究 (下)



2013年1月8日火曜日

規模の経済と規模の不経済その5

大量生産・大量消費に必要な規模の経済



管理人が「物資不足」と聞いて、真っ先に思いつくのは、
太平洋戦争直後の日本の様子です。



もちろん、当時の様子を、直接体験しているわけではありません。
ですが、小説やテレビドラマなどでその様子を見ると、
自分の祖父や曾祖父の世代の大部分が、その日、一日を生き延びる
食糧にも事欠いていたことについては、想像に難くありません。



そんな貧しい人々に生存に必要な物資を、大量で安価に安定して供給しようと思えば、
生産について規模の経済を働かせなければなりません。



モノが圧倒的に不足している世の中では、モノを生産すればするほど、
長期の平均総費用曲線を低下させる
ようにする必要があります。




物資不足

Life-Size Model / d'n'c


期間による固定費用の調整



前回のブログまでで、藤吉郎くんは、時間について「長い」・「短い」という
2つの期間を与られていました。その時間の選択肢にもとづいて、
「高い固定費用」「低い可変費用」の額を決めていました。



もし、藤吉郎くんが期間について、「短い」しか与えられていなければ、
通常の需要予測(生産個数220個)にもとづいて、「低い固定費用」「高い可変費用」
選択していたでしょう(上司の信長くんより費用を最小化するように命じられていたから)


このように、期間を基準にすると、固定費用について、次の特徴が分かります。


  • 短い期間→固定費用は調整できない
  • 長い期間→固定費用は調整できる(可変費用と同じ)


ソフトクリーム製造機や冷蔵庫などの固定投入物は、牛乳やコーンなどの原材料とは異なり、
「短い期間」では購入できないかもしれません。また購入できたとしても
生産に寄与させるために使いこなすには、「長い期間」が必要となります。



期間による平均総費用曲線の違い




固定費用の額は、平均総費用曲線の形状に影響を与えます。
また期間の長短によっても、形状は異なります。期間の長短にもとづいて、
概念図を表すと次のようになります。



短期と長期の平均総費用曲線の関係



短期と長期の平均総費用曲線の関係


  1. 規模の経済→財の生産量が増加するにつれて長期的な平均総費用が低下する状態
  2. 規模の不経済→財の生産量が増加するにつれて長期的な平均総費用が上昇する状態
  3. 規模に関して収穫一定→生産量が変化しても長期平均総費用が一定のとき


長期の平均総費用曲線は、短期の平均総費用曲線よりも平らかです。
また、短期の平均総費用曲線は、常に長期の平均総費用曲線の上に位置しています。



このような曲線の形状の違いは、企業が長期では、固定費用の選択について、
融通がきくという性質を表しています。逆に短期では、決められた短期の平均総費用曲線でしか
操業できないという、性質も同時に表しています。



ソフトクリーム店の店長である藤吉郎くんは、
固定費用の選択について、裁量が与えられていたため、
その範囲内で目いっぱい融通を利かせたということになります。
(つづく)










2013年1月7日月曜日

規模の経済と規模の不経済その4

なぜ「高い固定費用」なのか?



前回のブログで、ソフトクリーム店の店長である藤吉郎くんは、
長期の需要予測にもとづいて、従前よりも「高い固定費用」をかけようとしています。
その方が、販売量(生産量)が増加したときに、平均総費用が低くなると考えたからです。



低い固定費用と高い固定費用の比較






上の散布図を観察すると従業員が1人のときと、2人のときの間で、
「低い固定費用」のときの平均総費用(青)と、
「高い固定費用」のときの平均総費用(赤)が、逆転しています。




つまり、このグラフにある通り、
藤吉郎くんは、長期的には1日あたり220個ではなく、400個が売れると考えています。
この量で、平均費用を最小に抑えるためには、最初に「高い固定費用」を投入しているのです。




Lessons learned from growing internationally / BDOInternational



藤吉郎くんに与えられたものはヒト・モノ・カネ・「時間」



藤吉郎くんの責任は厳しいものの、規模の経済と規模の不経済その2であるように、
大きな予算や労働力の決定行う権限だけでなく、「長い猶予期間」も与えられています。



つまり、藤吉郎くんには、2通りの「時間の選択肢」として、
「長い期間」「短い期間」という2種類の選択肢が、与えられています。



前回シリーズの「利潤最大化と費用」でも、固定費用について言及しました。
しかし、このシリーズの場合、期間が短く、固定費用が調整できないという前提で、
平均総費用について述べました。このような費用曲線を「短期の平均総費用曲線」といいます。



一方、藤吉郎くんが負かされたソフトクリーム2号店のように、
平均総費用を最小化するために、長期的に固定費用を調整できる費用曲線を、
「長期の平均総費用曲線」といいます。



「長期の平均総費用曲線」と規模の経済



当ブログ、「おちゃらけミクロ経済学」をお読みの方には、
いわゆる「(営利企業の)会社」にお勤めの方もいらっしゃると思います。



その会社で仕事をしていると、時おり「規模の経済を働かせる」という言葉を
聞いたことがあるかもしれません。



経済学ブログを書く前、個人的には、「いっぱい作った(売った)方が費用が安く上がる」
ということぐらいに思ってました。ですがこの説明で、良いかどうかは、状況によります。



なぜなら、その状況というのは、「固定費用を調整できるかどうか」ということが、
正確な答えのための、キーポイントとなるからです。
(つづく)





2013年1月6日日曜日

規模の経済と規模の不経済その3

藤吉郎くん、「規模の経済」を働かせる




前回のブログで、商才のある藤吉郎くんは、
信長くんのソフトクリームビジネスの、2号店を店長として任されることになりました。



そこで、藤吉郎くんは、2号店でのソフトクリーム販売のために、
自ら仮説と需要予測を立て、設備(製造機や冷蔵庫など固定投入物)の購入をはじめました。
ところが、彼はその費用として、1号店で使った倍の金額を使い始めました。



長期的には、販売量(生産量)の販売量が見込めるとは言え、
なぜ彼は、固定投入物の購入を大きくしたのでしょうか?



もし、長期的に増加したときに、可変投入物(アルバイト従業員や牛乳など)を増やして、
対応すればよさそうに見えますが・・・。



※なお、藤吉郎くんは、現在のところ、2号店は1号店とほぼ同じ販売量(生産量)を
期待できると考えています。しかし1年後には(長期的には)「すぐ近くに、大学のキャンパスが
設置されて、1号店を上回る需要の増加が見込める」という仮説を立てています。



大学近くのカフェ

cafe terras / zoetnet


「低い固定費用」と「高い固定費用」



もちろん、藤吉郎くんは、のるか反るかの「大ばくち」を打っている訳ではありません。
「お客さん次第」の需要に対応できるよう、想定される需要の幅を広く取っています。
なおかつ、「低い固定費用」「高い固定費用」の2通りのケースを考えて、
設備投資を行うことにしました。



「低い固定費用」と「高い固定費用」


「低い固定費用」と「高い固定費用」



藤吉郎くんが目を付けている、上の表のポイントは、
「低い固定費用」「高い固定費用」の2種類に、場合分けをしていることです。



そして「低い固定費用」のときには、「高い可変費用」が対応し、
「高い固定費用」のときには、「低い可変費用」が対応しています。



特に注目すべきところは、従業員が1人のとき(ソフトクリームの生産量は220個)と、
2人のとき(ソフトクリームの生産量は400個)の平均総費用です。


                「低い固定費用」        「高い固定費用」
1人のとき→→→ 131.82円(低)         134.09円  
2人のとき→→→ 115.00円                 95.00円(低)


従業員が、1人のときと2人以上のときでは、両者の平均総費用が逆転しています。
なぜ、このような現象が起こるのでしょうか?


規模の経済



実は、この表は次のように、読み取ることもできます。


  • 従業員が1人のとき(生産量220個)→規模の経済が働かない
  • 従業員が2人のとき(生産量400個)→規模の経済が働く


従業員が1人のときの生産量で、固定費用を倍にしても
その追加負担分を、220個の生産数量に対して、十分拡散することはできません。



一方、従業員が2人のときの生産量で、固定費用を倍にすると、
その追加負担分を、400個の生産数量に対して、十分拡散することが可能となります。



つまり、藤吉郎くんは、「1年後には、すぐ近くに大学のキャンパスが設置されて、
「さらに需要の増加が見込める」という長期の需要予測と仮説にもとづき、
規模の経済を働かせようとしているのです。
(つづく)







2013年1月5日土曜日

規模の経済と規模の不経済その2

仮説と需要予測



前回のブログでは、「仮説上の需要」について、こだわって記事を書いてみました。
需要にあえて「仮説上の」と修飾語をつけています。



それは、最初に想定する、需要の内容や期間によって、企業(会社)が生産のために、
最初にかける費用(固定費用)の額が、異なり、利潤に大きな影響を与えるからです。
今回のシリーズでも、具体例を用いて考えていきましょう。




固定費用・固定投入物

minster-press / leecontracting




藤吉郎くん、2号店店長に就任




前回シリーズの「利潤最大化と費用」で、信長くんはソフトクリームビジネスをはじめ、
1号店を見事にヒットさせました。



そこで、ソフトクリームビジネスで培ったノウハウをもって、
今度は、2号店をとなり町に出店することを考えています。



ソフトクリームビジネス

/ y_katsuuu


ただ、信長くんは、自分で2店舗も経営する時間はありません。
そこで、1号店の従業員で、目端が利く、藤吉郎くんを2号店の店長に抜擢して、
店を任せることにしました。



そして、信長くんが、藤吉郎くんに店長を任せるときに、
ソフトクリーム販売の心得として、次の3か条を言い渡しています。

  1. 販売価格は常に同じ
  2. 費用は常に低くする
  3. 利潤が最も大きくなる生産量を見つける

さすがはソロバン勘定に、キビシイ信長くんです。
店は他人に任せても、数字は自分でコントロールしようという、ハラづもりです。



ちなみに、藤吉郎くんは、2号店の店長として、
ソフトクリーム製造機や、冷蔵庫などを購入するためのお金を扱う権限や、
労働力としてアルバイト従業員を採用する独自の権限も持っています。



また、1~3の条件通りに、2号店を軌道にのせるためには、
1年ほどの「長い猶予期間」を与えられています。



藤吉郎くんの仮説




藤吉郎くんにとって、上司の信長くんは「頑張りましたが、利潤は出ませんでした」とは、
口が裂けても言えない相手です。そこで目端の利く藤吉郎くんは、2号店で販売する
ソフトクリームの需要予測と、固定費用可変費用についての配分を、慎重に考えました。



このとき、藤吉郎くんの頭の中にインプットされている仮説が一つあります。
「長期的には2号店のソフトクリーム販売量(生産量)は増加する」。
(仮に2号店の周りには、1年後、大学のキャンパスが新しく設置されるとしましょう)



仮説を立て、需要予測を立てた藤吉郎くんは、次に設備投資をはじめました。
しかし、ここでソフトクリーム製造機や冷蔵庫など、いわゆるビジネスの固定投入物
使う費用について、なんと1号店の倍の金額を使い始めました!大丈夫なのでしょうか?
(つづく)






2013年1月4日金曜日

規模の経済と規模の不経済その1


利潤 = 総収入 - 総費用



企業(会社)が活動をしている、最大の目的は「利潤」の獲得です。
企業(会社)が一定期間に算出する「損益計算書(P/L)」を見ると、
「売上粗利益」、「営業利益」、「税引き後純利益」etcなど、
「利潤」の概念と近いものが、必ず登場します。



本来、ミクロ経済学で「利潤」というと、人件費や経費など「目に見える費用」に加えて、
「目に見えない費用」である機会費用も存在します。
ですがここでは、ざっくりと「経済利潤 ≒ 会計利潤」ということにしておきましょう。



これら「利潤」「利益」の考え方は、「利潤 = 総収入 - 総費用」という
単純な計算式に基づいています。会社など営利企業にお勤めをしたことがない、
学生さんも、利潤の考え方は、直感的で分かりやすいと思います。



(そして営利企業に勤めたことのある方ならば、仕事時間のほとんどを
「なんとか利益」について考える(考えさせられる)ことが、仕事となるでしょう)




電卓で利潤を計算!

Calculator and Money / Images_of_Money





「事業部長」の立場で考えよう




あなたは、ある企業(営利会社)にお勤めし、新規事業の事業部長を任せられています。
社長からは、その新規事業について、次のような条件が、付けられています。


  1. 販売価格は常に同じ
  2. 費用は常に低くする
  3. 利潤が最も大きくなる生産量を見つける


また、あなたは、事業部長として、土地や設備などを購入するためのお金を扱う権限や、
労働力として、就職希望者を採用する権限も、持っています。
社長が提示した3つの条件を満たすためには、どうすれば良いでしょうか?




ビジネスマン

Always the business man. / Matt Erasmus


仮説に基づいて利潤をはかる



もし、管理人がこの会社の事業部長であれば、
社長に対して、「そんな新規事業はできません」と答えると思います。
(もっとも、こんな答えをすると、「クビ」にされるぐらい、自分の立場が悪くなるでしょう。
実務的には、「できるかどうか状況によります」と答えるのが、「おとなの模範解答」でしょう)



もちろん、そんな「正直な答え」をするのは、新規事業の内容や、
経費の具体的な数値を提示されていないという、技術的な理由に求めることもできます。



ですが、この場合、新規事業の「周りの状況」が、よく分からないというのが本当の理由です。
「周りの状況」というのは、抽象的な言い方なので、「需要」という言い方もできると思います。



需要

Spring Time Cooking Class - Kitchen Garden, Shot Tower Square / avlxyz


もちろん、企業(会社)は「供給」することが仕事で、
「需要」は相手任せになるので、それこそ「よく分からない」というものです。



従って、企業(会社)としては、「これぐらいの需要があるだろう」と、
「仮説を立てる」ことが、非常に重要になります。
その仮説を立てることなく、新規事業を立ち上げようとしたことについて、
「できません」としたことが、管理人の真意です。



では、なぜ、「仮説を立てる」にこだわるのでしょうか?
それは、その仮説上の需要によって総費用や、企業の「利潤」を大きく左右するからです。
(つづく)