おちゃらけミクロ経済学: 9月 2012

2012年9月29日土曜日

比較優位と取引利益

1人で暮らすべきか?一緒に暮らすべきか?




前回のブログで示した、絶海の小島に漂流してきた、
2人の食料の調達状況を、再度確認してみましょう。




食料の確保量と消費量






この表を見る限り、ロビンソンは、吉之助と一緒に暮らすよりも、
1人で暮らしていた方が、絶海の小島でサバイバルできそうです。




ロビンソンにとってみれば、その方がバナナも魚もたくさん確保することができます。
わざわざ、吉之助と分け合わなくても、より多くの食料が確保できそうだからです。




しかし、経済学的な見地からすると、
ロビンソンは、吉之助と暮らした方が、より多くの利益を得ることができます。



経済学的な見地




集めるだけでなく取引することを考えてみましょう



冒頭で触れた表を拡張してみましょう。加える条件は2つです。




  1. 「食料集めは、魚とバナナのどちらか得意な方に特化する」
  2. 「食べきれない食料は取引する」


食料の確保量と消費量(取引した場合)



食料の確保量と消費量



取引による利益の説明




ロビンソン(魚捕り→×バナナの収穫→○)





80匹が最大確保量となり、うち56は従前通り自分で食べる。
20  は吉之助に渡す。4 は利益分とする。(80-56-20=4


  • バナナ


自分では確保せず、吉之助からバナナ20房をもらう。
18房を自分で食べて、2房は利益分 とする。(0+20-18=2



吉之助(魚捕り→×バナナの収穫→○)





自分では確保せず、ロビンソン から魚20匹をもらう。
12匹を自分で食べて、8匹利益分 とする。(0+20-18=8


  • バナナ

40 房が最大確保量となり、従前通り16房は自分で食べる。20房は吉之助に渡す。
4房は利益分 する。(40-16-20=4



機会費用と比較優位



ここで重要なポイントは、2人が、得意分野の食料を、取引していることです。
取引をすることによって、従前の量よりも、多くの食料を確保ていることです。
これを取引による利益といいます。




この一連の現象について、経済学的に丸めてみると、次のような表現になります。
「ある個人にとって、ある財の機会費用が他の人びとより低いとき、
その人はその財に比較優位を持つ」。

(つづく)



2012年9月28日金曜日

比較優位と取引

自由貿易の利益について考えてみよう




前回のブログで、「他人のカネで生きているアメリカ人に告ぐ」という本の引用を用いました。
そこでは、「なぜ自由貿易をすると利益が発生するのか?」というところで記事を終えました。
「おちゃらけミクロ経済学」で、おなじみの思考実験と作図で考えてみましょう


漂流者の食料集め




ある絶海の小島に2人の男が、漂流してきました。
2人の名前は、ロビンソンと吉之助です。









何の食料も持たずに漂流してきた2人にとって、さしあたって必要なのは、食料です。
周りを見渡すと、島にはバナナの木が自生し、周りの海には、魚がたくさん泳いでいます。
漂流して、数日間、2人とそれぞれバナナの実と魚を取って、食料としていました。




漂流者の食料集めを詳しく見てみよう




丸1日分の労力を使って、2人がおおむね確保できる食料と消費の状況を、
表とグラフにすると、以下の通りになります。




食料の確保量と消費量







ロビンソンは、魚捕りだけに専念すると、1日で80匹の魚を捕まえてくるようです。
バナナの収穫だけに専念すると、1日で60房のバナナが収穫できます。
魚が好きなロビンソンは、1日あたり魚56匹、バナナ18房、を集めるようになりました。





ロビンソンの食料の確保量と消費量



ロビンソンの食料の確保量と消費量




吉之助は、魚捕りだけに専念すると、1日で20匹の魚を捕まえてくるようです。
バナナの収穫だけに専念すると、1日で40房のバナナが収穫できます。
バナナが好きな吉之助は、1日あたり魚12匹、バナナ18房、を集めるようになりました。




吉之助の食料の確保量と消費量


吉之助の食料の確保量と消費量



比較は絶対数が行うべきか?



これらの表を見る限り、バナナの確保量も、魚の確保量も、吉之助の方が少ない状態です。
どうやらロビンソンは、吉之助と比べてサバイバル能力がとても高いようです。




ということは、これからロビンソンは、島のどこかに姿をくらまして、
1人で、バナナの収穫と魚捕りをしていく方がよいのでしょうか?
その方が、食料の少ない吉之助に足を引っ張られることもなく、サバイバルできそうな感じです。
ですが、そんなことはありません! ハズレ( ̄x ̄)乂ブッー!




ロビンソンは、吉之助と取引(交換)をすることによって、
1人で暮らすときよりも、多くの利益を得ることができます。

(つづく)






2012年9月25日火曜日

比較優位と自由貿易

Web上で巡回しながら読書してます




管理人は、日頃、twitterや読書管理サイトで
「なんかおもろい本、ないかなぁ」と
ネット空間で、ウィンドウショッピングしてます。
もっとも、気になる本を見つけたところで、ほとんどすべて図書館で借りてしまいますが(笑)





先日、「他人のカネで生きているアメリカ人に告ぐ」
(副題:リバータリアン政治宣言 ロン・ポール著 副島隆彦著 成甲書房)
というなんとも「刺激的な」タイトルの本が目についたので、借りて読んでみました。








「他人のカネで生きているアメリカ人に告ぐ」




この本の、レビュー自体はアマゾンに任せます。
管理人が、気になったのは、本文中の以下のくだりです。



"もし自分の町の住んでいる町でしか作られた製品しか買えない、
あるいは、自分の家庭で使うものすべてを自分の親戚以外からは買えないように制限したら、どうなるだろうか。このように自由な貿易を制限していくと、
制限そのものが私たちの生活を貧困にさせるという、しごく当然な結論が導かれる"
(同書P73)


本書はタイトルの通り、かなり 「刺激的な」内容です。
自由貿易の他にも、社会保障、軍事、税制など国政に関わる問題について、
事細かく、問題点をあげていきます。



ただし自由貿易による利益については、
「しごく当然な結論」とあっさり書いてしまってます。
つまり、自由貿易は、どんどんやってくださいということです。



それまで、著者のロン・ポールさんは、他の重要なトピックスについては、
かなりの紙幅をさいて、説明をされていたので、「意外とあっさり」というのが印象に残りました。
そこで、管理人は、自分がいつも使っている経済学のテキストを開いてみました。




経済学者の自由貿易に関する見解




いつも喧嘩ばかりしているように見える経済学者でも、自由貿易に関しては、
「輸入制限を課することは、取引利益を損なう」と、9割方のセンセイが賛成している
ようです。(注)



ということは、政治家も経済学者も、同意見ということは、お墨付きの理論なんでしょうね~。
でも「政治家と経済学者が言ってたから」という理由で、



「ハイ、わかった!つぎ!」となると、思考停止を招きます。
それにここで止めてしまうと、ブログも長続きしないので(笑)








そこでしばらくは、自由貿易が、なぜ利益をもたらすのかについて、
考えてみたいと思います。
(つづく)





(注)マンキュー「マンキュー経済学~ミクロ編第2版」(P48)より






2012年9月22日土曜日

アダムスミスと見えざる手(3)

富の分配のしくみ




前回のブログで、アダム・スミスが書いた、
「道徳感情論」における見えざる手は、社会全体の富の分配について、
次のことを明らかにしました。


  1. 「お金持ち」は、自分だけでは消費しきれない富を生み出す
  2. 「お金持ち」は、消費しきれなかった富で、使用人を雇い、ぜいたく品を購入する
  3. このように「貧乏人」は、「お金持ち」から生活必需品の原資を引き出す


この、「道徳感情論」における見えざる手
逆に応用したのが、以前、当ブログで紹介し、実際にアメリカで行われた、ヨット税のお話です。



ヨット税の復習



ヨット税のお話とは、
ぜいたく品に課税を行っても、富裕層(お金持ち)は、他のぜいたく品を買い物し、
ヨットの製造に携わる中産階級の失業などという、
「税の副作用」が発生するという内容でした。







もし、アメリカ議会でヨット税なるものが、採択されていなければ、
ヨット工場の製造ラインが止まったり、その従業員が失業することはなかったでしょう。



上のグラフに従って説明すると、くさびはかからず、
ヨット供給者の取引利益は、確保されていたはずです。
(灰色の大きな長方形と赤色の三角形の部分)



アダム・スミスの考え方を使えば、ヨット税がなければ、
ヨット製造業者の中産階級は、富裕層から、生活必需品を引き出すことができていたのです。
当然、製造業者の失業も少なくて済んでいたでしょう。




ヨット

sailboats / naitokz


「道徳感情論」から見る課税理論



「道徳感情論」見えざる手は、「高慢な地主(お金持ち)」のために,
無数の奢侈品を生産します。しかし、見えざる手は、それ以上に、
無数の奢侈品よりも多くの生活必需品を多く生産します。
それが、最低水準以下の生活をしいられている「貧乏人」を幸福にします。



つまり、「道徳感情論」における見えざる手とは、
「貧困をなくす仕組みづくり」
であるとも言えるのです。
それも「相対的な貧困」をなくすというより「絶対的な貧困」をなくすしくみづくりです。



そのため、見えざる手に対して、安易な「見える手」(人為的な課税)の導入
つまり課税を行うと「貧乏人」に対して、 「ヨット税」のお話 のような副作用をもたらします。
従って、人為的な資源配分でもある「見える手」を導入するためには、


  1. 課税について、需要曲線と供給曲線の相対的な傾きを考える
  2. 「誰が」、「どのぐらくい」負担するのかを考える


という分析が欠かせません。
税金の問題って色々な角度から考えられますね。
記事を書いている管理人自身がびっくりします。
(「アダムスミスと見えざる手」シリーズ終わり)



※「見えざる手」は「神の見えざる手」といわれることもありますが、
前回のブログで引用した「道徳感情論(下)」の文章では、「神の」という部分はありません。
従って当ブログの記事では、引用文にもとづき「見えざる手」と表記しております。




2012年9月21日金曜日

アダムスミスと見えざる手(2)

「高慢で無感覚な地主」って誰のこと?





前回のブログに、とても豪快な書きっぷりのところがあります。
「高慢で無感覚な地主」というところです。イヤミたっぷりな書きかたですね(笑)



実は、管理人は以前、ある百貨店の個人外商部で、働いていた経験があります。
当時は、お客様との付き合いがあったので、アダム・スミスからこんな指摘を受けると、
個人的には、非常に複雑な心境です(-_-;ウーン



「道徳感情論」の解説




さて、「高慢で無感覚な地主」が、私利私欲のためにお金を使うと、
「見えざる手」によって生活必需品が分配される、とはどういうことでしょうか?



アダム・スミスは、「道徳感情論」において、
小麦の生産を例に引きながら、説明しています。


"かれの胃の能力は、かれの諸欲求の巨大さにたいして、まったくつりあいをもたず、もっとも貧しい農民の胃より多くを、受け入れはしないだろう"

(管理人の意訳)
「広大で肥沃な土地をもつ地主は、自分やその家族だけでは、
収穫した莫大な量の小麦を食べきることはできないだろう」

"残りをかれは、かれ自身が使用するわずかなものをもっともみごとなやり方で
準備する人のあいだに、(中略)地位ある人々の家計のなかで使用されるすべての
さまざまなつまらぬ飾りや愛玩物を供給し整頓しておく人びとのあいだに、分配せざるをえない。"


(管理人の意訳)
「余った小麦は、地主の屋敷で、要領よく働く使用人の給料や、
嗜好品などを持ち込んで販売する業者への、代金として支払わなければならないだろう」

"こうして、かれらすべては、かれの奢侈(しゃし)と気まぐれから、
生活必需品のその分け前を引き出すのであって、かれらがそれを、
かれの人間愛または正義に期待をしても、むだだったであろう"


(管理人の意訳)
「かれら(貧乏人)は、かれ(地主)のぜいたく品の消費を助けることによって
生活必需品を賄う。地主の人間愛や正義によって賄われているわけではない」



アダム・スミス 水田洋訳「道徳感情論(下)」岩波文庫P23

道徳感情論の応用



いやはや、生活必需品について、すでに3世紀も前から指摘していた
アダム・スミスの洞察力に恐れ入ります。冒頭で愚痴ってましたが、返す言葉もありません。。。
ヤレヤレ ┐(´ー`)┌ マイッタネ



まさしく、アダム・スミスが描写した文章は、百貨店業界の外商の世界です。
かつての私がもらっていた給料はこのように支払われていました(笑)



ヤレヤレ ┐(´ー`)┌ マイッタネ




このように、「高慢で無感覚な地主」が、
気まぐれで散財することについて、税金をかけるとなればどうなるでしょうか?




当ブログで「道徳感情論」を持ち出したのは、
以前、「誰に対して」、税金の負担は向かうのか、を説明した
「ヨット税」のお話と結びつけるためです。



次回に持ち越して考えてみましょう!
一度引っ張ったネタを何度でも使えるところが、経済学のおもしろいところです!
(つづく)





2012年9月20日木曜日

アダムスミスと見えざる手(1)

見えざる手について



みなさん、見えざる手という言葉を聞いたことはありますか?



おそらく中学校の社会科の授業や、
高校の世界史の授業で、聞いたことがあるのではないでしょうか?



かくいう管理人も、中学生のとき、
高校受験の暗記必須項目として、この単語を覚えました
(覚えさせられたともいうべきか)。






2つの見えざる手~「国富論」と「道徳感情論」




ご存知の通り、これは、アダム・スミスが、自らの著作で用いた言葉です。
管理人が使っていた社会科の教科書では、「国富論」から引用されていることになっていました。



「国富論」見えざる手は、
社会全体において、適切な資源配分が達成されるとする考え方を、指します。




しかし、この見えざる手という記述は、
同じくアダム・スミスが書いた道徳感情論という本にも登場します。



"かれら(高慢で無感覚な地主)の生まれつきの利己性と貪欲にも関わらず、
自分たちのすべての改良の成果を、貧乏な人々ともに分割するのであって、
たとえかれらは、自分たちだけの便宜を目ざそうとも、(中略)
かれらは、見えない手に導かれて、大地がそのすべての住民のあいだで
平等な部分に分割されていたばあいに、なされたであろうのと
ほぼ同一の、生活必需品の分配を行うのであり"


アダム・スミス 水田洋訳「道徳感情論(下)」岩波文庫P24



この引用文をかいつまんで説明すると、



「貪欲な地主(お金持ち)が、自分の嗜好のためにぜいたく品を購入すれば、
自然の成り行きでいつのまにか、貧乏人にも生活必需品が行き渡る」




ということになります。


何かあられもない書き方ですが、なぜ「金持ちの貪欲さ」が必需品の分配を、
行うことになるのでしょうか?
(つづく)







2012年9月19日水曜日

Tax Hack(3)

教育委員がたばこ消費税のUPを申し出




わが町の教育委員として、
生徒の喫煙問題を担当することになった
あなたは、役場の財政課の課長に、たばこ消費税の税率UPを申し出ました。



しかし、たばこ消費税のを税率を上げると、
タバコ会社から突き上げをくらって、議会で同意されないという理由で、難色を示されます。
(前回のブログ)




税率のグラフ



たばこ消費税の狙いとは?




そこであなたは、財政課の課長にグラフを差し出しながら、具体案を示します。



あなた:「たばこの依存性の高さを逆に利用するんだ。
     未成年者にとって、たばこの需要曲線は、非弾力的で急な傾きをしている

課長:「ふんふん。なるほど」

あなた:「一方にたばこ会社の供給曲線は、たばこを海外で販売したり、
     成人に対しても販売できるので、相対的に弾力的だ。
     供給の傾きは非常に緩やか
なものとなる」



(たばこ市場の需要と供給の法則)



たばこ市場の需要と供給の法則



課長:「ひょっとして、委員は、税率の上昇による価格の負担は、
     たばこ会社ではなく、需要者である生徒に負担をさせるおつもりですか?」


あなた:「そうだ。各校での個別の対策は限界に来ている。口で言うよりも経済学で
            いうところの死荷重を、喫煙生徒に、実際に感じてもらうことにする

     その他、町の税収となった分は、喫煙による健康被害対策のために
     使うことにすれば、一石二鳥だ」



(たばこ市場の死荷重)




ペナルティーとして税金を活用



このあと財政課長が、たばこ税の税率を上げるための、
議案を草案したかどうかは、定かではありません。




ただ、あなたが考えた方法は、弾力性死荷重のマイナス面を、逆手に取る方法です。
死荷重を、負担に感じるからこそ、喫煙者が、自発的に喫煙量を自発的に減らすという発想です。



本来、需要してほしくない未成年の喫煙者に、
「ぜーきん」の負担を押し付け、タバコを買うことそのものを、
あきらめさせようとしているのです注)



なおかつ、 「ぜーきん」によるの増収分は、
喫煙者の健康被害対策に使うということですから、一石二鳥の方法。
まさに税金の有効活用、Tax Hack!です。



これであなたも教育委員長どころか、
次の町長選挙に出馬できるかもしれません(笑)


※たばこの値上げ(課税)は、成年者よりも未成年者に、重い負担がかかります。


"たばこの価格が10%上昇すると、需要量は4%減少するという結果が報告されている。
なかでも、10代の若者がとくに価格の変化に鋭敏に反応することも発見された。
10代の若者については、価格が10%上昇すると、需要量は12%も減少する"

グレゴリー・マンキュー「ミクロ経済学第2版」東洋経済新報社P103







2012年9月18日火曜日

Tax Hack(2)

当ブログおなじみの思考実験



わが町の教育委員に任命されたあなたは、
就任早々、「生徒の喫煙問題」を担当することになりました。
(前回のブログ)


その対策を思いついたあなたは、早速、オフィスを飛び出しました。
各学校に行って、さらに指導を強化するように、口頭で伝えるのでしょうか?



それともタバコ製造会社に行って、タバコの自動販売機やたばこケースに、
「未成年者にとって喫煙は有害である」
という旨の、広告でも打ってもらうよう、お願いしに行くのでしょうか?



いいえ。そのどちらでもありません。向かった先は、なんと役場の財政課
あなたは、財政課の課長に切り出しました。


役場の財政課



教育委員と財政課長の会話



あなた:「たばこ消費税の税率を上げることはできないだろうか?」



課長:「税率を上げることは、議会の同意が必要です。
    その議会でたばこ消費税の税率を上げるとなると、
    たばこ会社からの突き上げをくらって、
    議会の同意を得るのも無理
じゃないんですか?」



あなた:「いや、良い手があるんだ。課長、これを見てくれ」


といって、あなたはお手製のグラフとを取り出しました。



グラフ
GIZMODE PV TOP10 11/2/8 グラフ / gabuken



(つづく)
















2012年9月17日月曜日

Tax Hack(1)

ミクロ経済学の知見を実際に使ってみましょう





さて、今回のお題は、Tax Hack(税金を使ってやる!)です。
「使ってやる!」と言っても、別に「橋をかける」とか、市役所の物品を消費するとか、
「現ブツ」・「現ナマ」そのものを扱うわけではありません。



「使ってやる!」とは、ミクロ経済学における、
弾力性死荷重の考え方を使って、税金を Hack することです!



今まで、課税をすると 、死荷重 が発生する、などといってて、
さんざん、ネガティブキャンペーンをはってきました(笑)
しかし、今回のシリーズでは、ちょっとは、税金に肩入れしてみようかと思います。



あまのじゃくな性格で恐れ入ります。。。
m(。・ε・。)mスイマソ-ン


Hackとcrackingの違いについて



あと「Hack」という言葉はあまりありがたくない意味で
使われることも多いようですが、本来は「上手いことやる」という意味です。



日本語で「ハックする」とは、「相手を欺く」、「撹乱させる」
という意味合いもあるようですが、英語では「cracking」という言葉が、これらに相当します。



ミクロ経済学で思考実験



あなたは、わが町の教育委員に任命されました。
しかし、就任早々、管轄の学校から、芳しからぬ報告が上がってきました。







「学校内での生徒の喫煙が増加している!えらいこっっちゃ!」
そして報告書の下には次のように書き加えれられています。



「各校で生活指導を担当している先生は、
校内の見回りを増やして、指導を強化しているが、成果がいまいち上がらない…」



どうやら、各校の個別の対策では、限界があるようです。
そこであなたは、ある「経済学のテキスト」を手にとってパラパラとめくってみました。




たばこ

Business as usual / Comrade Foot




すると、ある箇所でピタリと手が止まり、ニヤリ笑いました。
どうやら良いアイデアが思いついたようです!
(つづく)





2012年9月16日日曜日

取引利益と税金と死荷重

「取引利益」シリーズまとめ



需要と供給の法則において、
価格が下落すると、消費者余剰は下落します。



価格が下落したときの消費者余剰


価格が下落したときの消費者余剰



逆に、価格が上昇すると、消費者余剰は減少します。



価格が上昇したときの消費者余剰


価格が上昇したときの消費者余剰



これまで5回にわたって「取引利益」シリーズを
引っ張ってきたのは、この2つの消費者余剰の変化について、説明するためです。




議会で説明

Board of Public Works Meeting / MDGovpics



取引利益と税金と死荷重



この図、何かに似てませんか?
お心当たりのある方ありがとうございます。あなたは、当ブログの愛読者です(笑)
それは税金死荷重です。



政府の税収がかかった図






普段、みなさんが「ぜーきん」と聞いて、あまりイイ顔しなくなるのは、
「超ラッキー!!!」(個別消費者余剰)が、感じられなくなるからなのです。



それもただ単に政府の税収によって、「超ラッキー!!!」が、
感じられなくなるだけではありません。



価格の上昇(課税)によって、社会的損失である死荷重までも、感じてしまうからです。
もちろん感じ方は個人によって、さまざまです。ここでは、「個人が」というより、
社会全体として、そう感じてしまうということです。



ちなみに「取引利益」シリーズでは、生産者余剰については触れていません。
しかし、税金のくさびかかると、売り手の生産者余剰も、減少します。
個別消費者余剰と同じことです。



「取引利益」シリーズは、今回で終了です。
次回からは、みなさんがイヤ~な顔する「ぜーきん」について、
逆手にとって利用することを考えてみたいと思います。
((ノ(_ _ ノ)ヨロシクオネガイシマス




2012年9月15日土曜日

取引利益と価格変動

取引利益と消費者余剰のおさらい




先日、当ブログで掲載した、
取引利益と総消費者余剰取引利益と消費者余剰の増加で、
ネタフリは、完了させました。


ある財の価格の下落は、消費者にとっての「余剰」となります。
この余剰について、直感的に表現すれば、
「思ったより値段が安くて超ラッキー!」といった感覚というところでしょうか。



価格が下落したときの個別消費者余剰の図



価格が下落したときの個別消費者余剰の図



消費者が無数に存在するときの価格下落



その取引利益と総消費者余剰で紹介した、
価格が下落したときの個別消費者余剰が、
取引利益と消費者余剰の増加で紹介したように、
「なめらかな需要曲線」になると、どうなるでしょうか?



財を購入する消費者が無数に存在すると、
階段状のグラフが、直線で表現されることになります。



例えば、下のグラフのように、5,000円の価格が、4,600円の価格に、
下落したと考えてみましょう。



すると、濃い青色の長方形において、
既存の消費者の余剰が、
薄い青色の三角形において、
取引に参加することができなかった、新規の消費者の余剰が、
それぞれ発生します。



価格が下落したときのなめらかな消費者余剰の図



価格が下落したときのなめらかな消費者余剰の図




上のグラフについて数値を用いて、
計算すると、なんと18億円分の消費者余剰(超ラッキー)が発生します。
台形面積の計算で、数値を求めることができます。


  • 高さ→400円
  • 上辺→400万トン
  • 下辺→500万トン


=400円×(400万t+500万t)÷2)



宝くじ

宝くじ / タカハシケンタロウ


価格が上昇すると余剰はどうなるか?



ところで、今回の一連のブログでは、小麦粉を例にとり、
「価格が下落する」パターンを紹介しました。



しかし、世の中には、「価格が上昇するパターン」ということも考えられます。
イメージとしては、下の図のようになります。



価格が上昇したときのなめらかな消費者余剰の図




価格が上昇したときのなめらかな消費者余剰の図



消費者としては、イヤなパターンですが、どこかで見たことありませんか?
驚くべき類似!ようやく「取引利益」シリーズのオチが見えてきました。
(つづく)




2012年9月14日金曜日

取引利益と消費者余剰の増加

ミクロ経済学に見る「ミナミの帝王」




モノが安くなったら何かいいこと、ってあるのでしょうか?
「そら、モノが安うなったら、なんぼでも買い手が増えて、お客さん、喜ばはりまっせ!!!」


モノが安くなることについて、
『ミナミの帝王』の主人公である、萬田銀次郎風に、読みとることもできますね。
でも、そのことを経済学的に表現するには、どうしたら良いでしょうか?



今回のブログでは、「買い手の」の利益について、
毎度おなじみの「思考実験」をして、その表現方法について、考えてみましょう!



ただ、厳密にいえば、一人の人間が、モノの「売り手」も、「買い手」も兼ねていることが、
多々あります。ですので、一方的に、「モノが安う」なったら、エライことです。



この際そのことはちょっと目をつむってください。ヨロシク(゚0゚)(。_。)ペコッ



セール

ユニクロセール、朝六時!? / kisocci




「値下がり」 → 消費者の「超ラッキー!」感 → 消費者余剰 その1



わが町の小麦市場では、
製パン用の、最高級品質の小麦粉が100Kgで5000円で取引されています。
また、その小麦市場において、5つのパン屋さんが、
下記の表にもとづき、製パン用の小麦粉を、仕入れています。



                    支払意欲額        支払い額     差額
ワロタ製パン            →7200円     5000円     2200円
ネトゲ加工パン          →6400円     5000円     1400円
なう食品               →5400円     5000円      400円
元祖パワポ屋          →4800円     --円            --円
ベーカリー・ジャムおじさん  →4200円     --円            --円



小麦粉市場の個別消費者余剰の図



小麦粉市場の個別消費者余剰の図



ある年、小麦の大豊作が発生して、
製パン用の小麦粉が、100Kgで、4,600円まで値下がりしました。



すると、パン屋さんを経営している、元祖パワポ屋のオヤジは、「超ラッキー!!!」と感じます。
今まで、最高級品質の小麦粉に対して、4,800円の支払意欲しかなかったのに、
それが一気に4,600円まで値下がりして、購入できるからです。
価格が下落したときの個別消費者余剰の、うすい青色の部分)



「値下がり」 → 消費者の「超ラッキー!」感 → 消費者余剰 その2


  • ワロタ製パンの社長、
  • ネトゲ加工パンのオーナー、
  • なう食品の工場長、


は、それぞれ、「ちょっとラッキー!」、と感じています。
なぜなら小麦粉購入の支払い額が、400円(5,000円-4,600円)少なくなるからです。
価格が下落したときの個別消費者余剰の、濃い青色の部分)



以上のことをグラフで表すとこんな感じです。


価格が下落したときの個別消費者余剰




価格が下落したときの個別消費者余剰




この図から、価格の下落は、個別消費者余剰を増加させます。
つまり、冒頭で申し上げた「モノが安くなったら何かいいこと」とは、
次の1~3のようになります。




  1. 「価格の下落」
  2. 「買い手のラッキー感の増加」
  3. 「個別消費者余剰の増加」




(つづく)











2012年9月11日火曜日

取引利益と総消費者余剰

図で見て分かる総消費者余剰



さて、ここ数回ぐらい小麦とパンでブログネタを引っ張っております。
前回、その小麦を扱うパン屋さんが、感じる「超ラッキー!!!」について、述べていました。




ロールパン



小麦粉市場の個別消費者余剰の図




小麦粉市場の個別消費者余剰の図


この図で、「超ラッキー!!!」を感じているのは、次の3つのお店です。



  • ワロタ製パン 
  • ネトゲ加工パン
  • なう食品


「超ラッキー!!!」である個別消費者余剰は、青色の長方形の面積で、示されています。
そして長方形の面積の和は、総消費者余剰と呼ばれます。




総消費者余剰の正体その1




この総消費者余剰は次の原理を明らかにします。
総消費者余剰について、クルーグマン(経済学者)のお言葉を拝見してみましょう。




"ある価格水準で財を購入したときに得られる総消費者余剰は、需要曲線の下側で価格より上側の領域の面積に等しい。この原理は、消費者の人数に関係なく適用できる”
ポール・クルーグマン「ミクロ経済学」東洋経済新報社 P165 


総消費者余剰の正体その2


クルーグマンの引用を2つに分解し、
わが町の小麦粉市場に沿って、いっしょに考えてみましょう。



1.

"ある価格水準で財を購入したときに得られる総消費者余剰は、
需要曲線の下側で価格より上側の領域の面積に等しい。"<

→各店の個別消費者余剰の合計(総消費者余剰)、
つまり各店の 「超ラッキー!!!」 の合計は、
需要曲線と均衡価格の間にある部分に等しい




2.

"この原理は、消費者の人数に関係なく適用できる"

小麦粉市場は、わが町だけでなく、あなたの町にも、ジョンの町にも、太郎の町にもあります。
数え始めると小麦粉市場は、この世界に数えきれないくらい存在し、
小麦粉を必要とするパン屋さんも無数に存在します。



すると、各パン屋さんの、小麦粉に対する支払意欲額の差は、極めて細かくなります。
個別消費者余剰は、階段状のものではなく、滑らかな曲線になります。



なめらかな消費者余剰



なめらかな消費者余剰



なんか、この図何か見たことがありませんか?(笑)
(つづく)






2012年9月10日月曜日

取引利益と個別消費者余剰

小麦と経済学のビミョーな関係



前回のブログでは、「ノンアルコール飲料」→「麦芽」→「麦」つながり、
ということで強引に小麦を引っ張り出しました。



本当のところノンアルコール飲料の麦芽は、大麦から作られているそうです。
実は言うと、経済学で概念を説明するには、小麦や、それで作られるパンなどが、
説明しやすいので、このまま小麦でもって話を続けます。



「値下がり」 → 消費者の「超ラッキー!」感 → 消費者余剰とは?





では、まず消費者余剰について考えてみましょう。
わが町には、次の5軒のパン屋さんがあります。




食パン



  • ワロタ製パン
  • ネトゲ加工パン
  • なう食品
  • 元祖パワポ屋
  • ベーカリー・ジャムおじさん


わが町の住人は、朝食の食パンにはうるさい人たちばかりです。
どのパン屋さんも、自分のお店の経営状態を考えながら、最高の食パン作りに励んでいます。




5軒のパン屋さんの近くには公設の小麦市場があり、
そこから原料の小麦粉を仕入れています。
ある日、最高級品質の小麦粉100kgが5000円で売り出されました。




そのときの各パン屋さんは自分のお店の経営状態を考え、
支払意欲額は次のように考えしました。



                支払意欲額
ワロタ製パン           →7200円
ネトゲ加工パン          →6400円
なう食品              →5400円
元祖パワポ屋          →4800円
ベーカリー・ジャムおじさん  →4200円



さてこの支払意欲額から、実際に支払った額を引いてみましょう。





                 支払意欲額     支払った額     差額
ワロタ製パン            →7200円     5000円     2200円
ネトゲ加工パン          →6400円     5000円     1400円
なう食品               →5400円     5000円      400円
元祖パワポ屋          →4800円     --円            --円
ベーカリー・ジャムおじさん  →4200円     --円            --円




ここでいう差額とは、経済学の専門用語を使うと、個別消費者余剰といいます。
これは、支払っても良いと思う額から、実際に支払った額のことを指します。




h3消費者余剰とは「超ラッキー!」感



ワロタ製パンの社長にしてみると、この差額の発生によって
「最高級品質の小麦粉って聞いたから7200円ぐらいは、
払わなあかんと思ってたけど5000円で済んだ。2200円は超ラッキー!!!」と感じることになります。



平たく言えば、「差額=超ラッキー!!!」ということです。
専門用語を使うと便益ともいいます。




ちなみに元祖パワポ屋とベーカリー・ジャムおじさんについては、
そもそも支払意欲額が支払価格を下回るため、
差額(超ラッキー!!!)は発生しません。



以上のことを表すと、下の階段ような図が出来上がります。




小麦粉市場の個別消費者余剰




小麦粉市場の個別消費者余剰


そして、よく見ると青色の長方形は、



  • ワロタ製パン 
  • ネトゲ加工パン
  • なう食品



のところ(個別消費者余剰)だけです。
小麦市場の需要者側の消費者余剰合計額は、
4000円(=2200円+1400円+400円)となります。




この4000円については、経済学者の先生方の間では、
総消費者余剰といわれる部分です。



と、ここまで読んでいただいた方、本当にありがとうございます。
専門用語をたくさん並べてしまいました。



なるべく専門用語は噛み砕いて説明するようにいたします。
ミクロ経済学の「おとなの約束事」として、思っていただければ幸いです。



あまり専門用語をならべても、所詮、当ブログの管理人の知識程度では、
ウィキペディアに勝てませんし。

(つづく)




















2012年9月9日日曜日

取引利益と消費者余剰

麦と、小麦と、経済学と




つい先日、Yahoo検索キーワード調べてたら、ノンアルコール飲料が、
はやっているらしいですね( ´~)◇y ゴクゴク



どうやって作るんだろ(・_・?)wikipediaで調べたみたら、麦芽が使われているらしい。
この文字を見ると安心でするんですよね~。



なんせ経済学のテキストを見ると
やたら「小麦」をの例を使って説明することが多いもんですから。



というわけで「麦」つながりとうことで
私も小麦市場について考えてみたいと思います。ちょっと強引なネタ振りですみません。。。




小麦市場の需要と供給の法則



以下の4つの条件のもとで、毎度おなじみの需要と供給の図を使って
小麦市場を想像してみましょう。





需要と供給



  1. 取引される小麦はすべて同じ品質
  2. 取引に関わる手数料は発生しない
  3. 売り手買い手ともに小麦の品質について同じ情報を持っている
  4. 売り手と買い手はそれぞれ自由な価格で取引ができる


均衡している点を、仮にE点とします。
その均衡数量を10tとし、1tあたりの均衡価格を1万円としましょう。




小麦市場の需要と供給の法則



小麦市場の需要と供給の法則



市場取引による利益の合計




このとき、需要曲線と供給曲線の、Y軸の接点をそれぞれ、A点、B点としてみましょう。
そして、その均衡点のE点及びA点、B点を頂点とした、△EABを作成します。
すると、その△EABは、さらに2つの三角形に分けることができます。




小麦市場の生産者余剰と消費者余剰








  • 消費者余剰(青色の部分)→需要者の支払い意欲額の合計
  • 生産者余剰(ピンク色の部分)→供給者の販売意欲額の合計。


これらの消費者余剰生産者余剰を合わせると
市場取引によって発生する利益の合計を表すことになります。



どうして、これが何で利益の合計なるのでしょうか?
それでは、これから市場取引の利益について考えてみましょう。
(つづく)





2012年9月8日土曜日

社会保険料(おまけ)

社会保険シリーズの応用例



今回は、「社会保険料」シリーズのおまけです。
ミクロ経済学で見る、社会保険料の分析を、政策立案に実際に応用してみましょう。



「社会保険料」シリーズのおまけ




みなさん、この図について覚えておいででしょうか?


労働市場の死荷重



労働市場の死荷重




社会保険料について、労働者(供給者側)の負担の方が大きい
というずですよね。(社会保険料は誰の負担か(4))



政策秘書が考える社会保険料負担の見直し




あなたは、ある町で、町長の政策秘書として活躍しいます。
ある日、あなたのボスである、町長に呼ばれました。



「今日の議会で社会保険料の負担について見直しが決まった。
何かいい案はないだろうか?」



たまたま当ブログの「社会保険シリーズ」を読んでいたあなたは、
このようなグラフを想像するのではないでしょうか?



労働市場の死荷重(逆バージョン)





労働市場の死荷重(逆バージョン)




今回の記事で最初に登場した図の、
労働曲線と供給曲線の弾力性を、それぞれ逆にした図です



相対的に見ると、


  • 需要(雇用主)に負担が軽い
  • 供給(労働者)の負担が重い



という従前の状況が是正されるのではないでしょうか?
それでは具体的にはどんな案になるでしょうか?




具体的な政策案その1



  1. 大規模なインフラを作る
  2. 大規模なインフラを使う企業をたくさん誘致する


という案が、考えられます。



具体例として考えるなら、
航空運輸産業(空港と航空運送サービス)や
いま流行のクラウド業界(汎用のソフトウェアと付随するプログラム)
などが挙げられるでしょう。




航空運輸産業




これらは、相対的に人手を要する仕事なので、
労働に対する需要が高くなり、曲線の傾きが大きくなることが期待できます。



具体的な政策案その2




それでは、供給曲線の傾きを変えることはできるでしょうか?
もし管理人が、政策秘書であれば、「できる」と考えております。



少し「ひねくれた制度」ですが、賃金が下がると労働時間を減らしやすい
という動機付けをする制度を作れば、いいのではないかと考えております。



が、今回の「思考実験」は、みなさんがわが町の政策秘書です。
管理人がでしゃばることはできません。



いい案がございましたら、私にも教えていただきたいと思います。



それでは!
ばいばい(⌒ー⌒)ノ~~~





2012年9月7日金曜日

社会保険料とクルーグマン

「名目的な負担」と「実質的負担」




今回のブログで社会保険料の「真の負担」を明らかにしてみましょう。







前回のブログではお話をこのように結んでいます。



"なんだか下の方の三角形が大きいですよね。
この場合、社会保険料は供給者側、つまり従業員にとって
負担が重くなる
のです"



雇用量の調整はしやすいが、労働時間の調整はしにくい




労働市場の死荷重












ポール・クルーグマンのテキストから、
この文章について、裏付けてみましょう。



"それでは、誰がFICAを支払うのか。この点を研究した経済学者はほとんどみな、FICAを支払うのは雇用者ではなく、労働者だということに同意している。こうした結論は、家計の労働供給の価格弾力性と企業の労働需要の価格弾力性の比較から出されたものだ。(中略)平均賃金が1%上昇すると労働時間への需要は少なくとも3%は減少する。しかし労働供給の価格弾力性はとても低いと信じられている"

ポール・クルーグマン「ミクロ経済学」東洋経済新報社 P154より




つまり、
雇用主は賃金(価格)が上がると、それ以上に雇用を減らすが、
労働者は、賃金が上がっても、労働量(労働時間)を、簡単に増やすことはできない




ということです。




このため、クルーグマンやマンキューのテキストでは、
FICAについて、社会保険料の負担は、「労働者の負担の方が大きい」と結論付けています。




日本の社会保険料は、
法律により労使折半で負担することが、慣例化されています。



たしかに保険料率は2で割れば、「名目的な」保険料の負担割合は、労使が同じ値になります。
しかし、「実質的」には、折半負担しているわけではないんですね~」。
このお話、管理人も経済学を勉強しててとてもビックリしたケーススタディです。




社会保険料からみる経済学まとめ




「社会保険料の誰の負担か」は、4回にわたってのシリーズでしたが、
結論するとこういうことになります。





  1. 社会保険料負担は、法律的など「名目的」に平等であるが、「実質的」には平等にできない。
  2. 社会保険料の「実質的な」負担は、需要曲線と供給曲線の傾きで決まる。



給与明細書で見落とされがちな社会保険料について、ネタを引っ張れそうなのもここまでです。
また面白そうなネタを考えるとしますか。。。。(⌒∇⌒)ノ""マタネー!!



FICAとは…


連邦保険寄与法(Federal Insurance Contribution Act)。
社会保障と医療システムのために給与から一定割合で天引きされる金額のこと。
別名「給与税」とも言われる。日本の「厚生年金保険法」と「健康保険法」に相当する制度です。



【追記】
「社会保険料の負担感は労使で異なる」ということについて、
下に上げる参考文献でも名言されて、いますので、引用文を紹介しておきます(2012年12月29日)

"経済学では、理論的にも、実証的にも、会社側の負担はは「実際には」そのほとんどが「労働者の負担となっていることが知られています。現実問題として、形式上、労使折半だからと言って、会社が半分負担してくれていると思うほど皆さんは甘い世界に生きているのでしょうか。この厳しい競争社会において、会社の経営者は、会社分の半分の負担をどうやって捻出するのでしょう。(中略)実際には、労働者の賃金を会社分だけ減らして、それをもとに会社が負担をしているのです。会社負担分だからといって、将来、会社が年金を受け取るわけではありませんから、実際に全額の年金を受け取る労働者の負担を転嫁するのは当然のことです"


(「年金問題は解決できる P84 第3章祖父と孫の年金受給格差は6300万円」 下線部は管理人)



【関連エントリ】



年金問題は解決できる! 積立方式移行による抜本改革その1
年金問題は解決できる! 積立方式移行による抜本改革その2
年金問題は解決できる! 積立方式移行による抜本改革その3
年金問題は解決できる! 積立方式移行による抜本改革その4




【参考文献】


鈴木 亘 年金問題は解決できる! ―積立方式移行による抜本改革年金問題は解決できる! ―積立方式移行による抜本改革 日本経済新聞出版社


年金問題は解決できる! ―積立方式移行による抜本改革
 

2012年9月6日木曜日

社会保険料と労使折半

労使折半とは



さて、サラリーマンの方には、
おなじみの給与明細書にのっている、社会保険料のお話です。
半分ずつのものが、実は半分ずつじゃないお話です。



社会保険料(厚生年金保険料、健康保険料)の負担は労使折半である」
つまり、雇用主も従業員も、社会保険料の負担は半分ずつということです。





社会保険料率の変動



厚生年金保険料は、2012年月8末現在16.412%です。
それを割ると労使それぞれ8.206%ずつの負担となります。
ただし、2017年度までは保険料が少しずつ上昇します。



名目的な負担と実質的な負担



社会保険料と、その負担割合を見ると、
「社会保険の負担はやっぱり労使折半じゃないか!考えるまでもない!」
ということです。



確かにその通りでしょう。ただしそれは名目的に平等なだけです。
従って、ここから下では、実質的なお話をいたします。




まず前回のブログで紹介したこの図を思い出しましょう。



社会保険のくさびがかかった労働市場 





社会保険のくさびがかかった労働市場





そしてもうひとつ、思い出してください。
「需要の弾力性が、供給の弾力性より高いと、税金の負担にとってより高いものとなる」 
→→→参考記事




労働市場の死荷重






労働市場の死荷重




なんだか下の方の三角形、
つまり、労働を供給する側の死荷重が大きいですよね。




それではやっぱり・・・
(ノ゚ρ゚)ノ ォォォ・・ォ・・ォ・・・・
(つづく)