おちゃらけミクロ経済学: 2012

2012年12月24日月曜日

利潤最大化と費用その8

利潤と最小費用生産量の関係



前回のブログでは、信長くんのソフトクリームビジネスにおいて、
平均固定費用、平均可変費用、平均総費用の散布図を作成しました。
今回のブログでは、その散布図にさらに限界費用を加えてみましょう。


3つの費用と限界費用





この散布図で特に注目する点は、従業員数3人のときの生産量です。
このときの生産量を、最小費用生産量といいます。
最小費用生産量には、次の3つの特徴があります。


  1. 最小費用生産量の生産→平均総費用 = 限界費用
  2. 最小費用生産量より生産少→限界費用 > 平均総費用
  3. 最小費用生産量より生産多→限界費用 < 平均総費用


そもそも、企業が目的としている利潤は、総収入から総費用を控除して
求めることになっています。



すると、この散布図を見ると、平均総費用と限界費用が交わる点が、
利潤が最も大きくなる点
ということが分かります。
もちろん、このときの利潤が最も大きくなる点とは、生産設備などが、
常に一定であることが条件です。


費用の概念と測り方まとめ



今回の「利潤最大化と費用」シリーズでは、
「費用」と名のつくものがたくさん出てきました。



それぞれのビジネスで「儲け」を出すためには、
費用概念を区別した上で、その特徴を押さえておくことは、
大変重要なので、表にまとめておきます。



費用の概念と測り方


費用の概念と測り方


利潤最大化のための「他の方法」



それでは、信長くんのソフトクリームービジネスにおいて、
利潤の最大化を図るためには、従業員を3人にして生産個数を
540個にしておき、あとは何もすることはないのでしょうか?



答えは、もちろんそうではありません。
利潤をさらに大きくするためには、主に次の4つの施策が考えられます。


  1. ソフトクリーム製造機や冷蔵庫などの生産設備を増やす
  2. 販売価格を上げる
  3. 周囲の同業者の出店を差し止める
  4. 店の周りでチラシをまくなどして、営業・広告をうつ


冷蔵庫

赤牛冷蔵庫 / TACKTY


どの方策も、一見すると当たり前のような施策のように見えます。
しかし、実は、どの施策も、ミクロ経済学的の理論によって、裏付けれた施策です。
次回のブログでは、4つのうちの、1について、考えてみましょう。
(「利潤最大化と費用」シリーズおわり)



【関連エントリ】


利潤最大化と費用その1
利潤最大化と費用その2




2012年12月20日木曜日

利潤最大化と費用その7

平均総費用→拡散効果+限界収穫効果



前回のブログでポイントとなる、概念は以下の3つです。

  1. 平均固定費用
  2. 平均可変費用
  3. 平均総費用(平均費用)

この中で特に、ビジネス上の「儲け」を出すために、重要な概念となるのが、
3番目の平均総費用です。まずは、前回のブログでの問題の答えを出しながら、
平均総費用の概念について把握しましょう。



問題の解説


【問1】


限界費用と平均総費用の違い問1答え


限界費用と平均総費用の違い



それぞれの概念を簡単な数式で表すと、次の通りです。


  1. 平均固定費用=固定費用÷生産量
  2. 平均可変費用=可変費用÷生産量
  3. 平均総費用=平均固定費用+平均可変費用

【問2】


限界費用と平均総費用の違い問2答え





【問3】


平均総費用が最小になるのは、ソフトクリームを540個生産したとき。
(従業員を3人にしたとき)



答えの解説



3つの費用概念の特徴を表すと、次のようになります。
作成したグラフと合わせてお読みください。

  • 平均固定費用→拡散効果

生産量が増加するにつれ、最初の固定費用を分担しあっている。


  • 平均可変費用→収穫逓減効果

生産量が増加するにつれ、追加的な生産物をつくるのに、
必要な投入物が増えている。

  • 平均総費用→拡散効果+限界収穫逓減効果

拡散効果と、収穫逓減効果とが、それぞれ逆効果を及ぼしている。
(収穫逓減効果について詳しい説明はコチラ)



生産量が少ない時は、拡散効果が強く働き、平均総費用は下がっていきます。
しかし、生産量が増加するにつれて、拡散効果よりも、限界収穫逓減効果が強く働き、
平均総費用は上がっていきます。





儲けのピーク

successful business woman on a laptop / Search Engine People Blog



つまり、平均総費用は、「ある一定」のところで減少から上昇に転じます。
この「ある一定」のところが、「儲けのピーク」といわれるところであり、
ビジネスを続けていく上で、とても重要な概念となります。
(つづく)



【関連エントリ】
                                                                                         
限界収穫逓減の法則その2








2012年12月13日木曜日

利潤最大化と費用その6


限界費用と平均総費用(平均費用)について



利潤最大化と費用その5
利潤最大化と費用その4



では、それぞれ費用をはかる概念として、
総費用限界費用という概念が登場しました。



今回のブログでは、平均総費用という概念について考えてみましょう。
単に、平均費用と呼ばれることもあります。



平均総費用限界費用は、一見すると似たような概念に、
見えるかもしれません。しかし、両者の概念はまったく異なります。



平均総費用→生産物1単位につき生産費がいくらかかっているかを示す費用
限界費用→→さらにもう1単位生産するのにかかる費用



と、文字だけで表現しても分かりにくいと思います。
従って、問題形式で考えていきましょう。




信長くんのソフトクリームビジネス(その3)




信長くんは、自分でソフトクリームのお店を営業しています。
ソフトクリームの生産量や、従業員の賃金など生産するための条件は、


利潤最大化と費用その4
利潤最大化と費用その2


のときと同じです。




ソフトクリームビジネス

ボーイ アンド ガール boy and girl / "KIUKO"


基本問題の確認



【問1】



下の図にもとづき、ソフトクリームの各生産について、
平均固定費用、平均可変費用、平均総費用を算出しましょう。



限界費用と平均総費用の違い




限界費用と平均総費用の違い



ヒント:ピンク色の各費用の部分を、ソフトクリームの生産個数で割り算をします。




【問2】


平均固定費用、平均可変費用、平均総費用をグラフに書き込んでみましょう。






ヒント:問題文のワークシートの、可変費用と総費用を取り出して、グラフを作成しましょう。



応用問題にチャレンジ!



【問3】


平均総費用が最小になるのは、ソフトクリームを何個生産したときか?





ヒント:平均総費用は、生産量の少ない時は減少しますが、ある一定の生産量で上昇します。
(問題の解答はコチラ!)





2012年12月10日月曜日

利潤最大化と費用 その5


問題のおさらい



前回のブログでは、3つの問題を出題しました。
問題のポイントは、以下の通りです。

  1. 問1 総費用と可変費用の計算
  2. 問2 総費用と可変費用の計算
  3. 問3 限界費用の計算(追加で1個多く作ったときの費用の計算)

基本問題の確認



【問1】答え


信長くんのソフトクリームビジネス 可変費用と総費用 問1答え





  • 220個のとき
可変費用→19,000円
総費用→29,000円


  • 400個のとき
可変費用→36,000円
総費用→46,000円




応用問題の確認



【問2】答え


信長くんのソフトクリームビジネス 可変費用と総費用






答えのグラフは、問1の表ににもとづき、可変費用の合計と、総費用にのみに要約した表です。


【問3】答え









限界費用とは、それまでの1単位を多く作ったときに、発生する費用のことを指します。


  • 220個をつくるときの限界費用→19,000円
  • 400個をつくるときの限界費用→17,000円


答えの解説



【問1】



ひとくちに「費用」といっても、ミクロ経済学では、いくつかの種類があります。
まずは、総費用=固定費用+可変費用、という具合に理解しましょう。




【問2】



総費用には、固定費用が含まれているため、
労働投入量が0のときでも、0にすることはできません。
グラフが、原点からスタートすることはありません。



ソフトクリームの売り上げが発生する前に、製造機や冷蔵庫、
土地などを購入する費用が、すでに発生しています。



可変費用の合計は、労働投入量と正比例します
従業員数が0のときは、費用も0になるため、グラフ上では、原点からスタートします。




【問3】



従業員数が1人のときは、0人のときに比べて、
ソフトクリームを220個作るために、19,000円の追加的費用が、発生しています。



従業員数が2人のときは、1人のときに比べて、
ソフトクリームを400個作るために、17,000円の追加的費用が、発生しています。



問3の答えを見ると分かるように、従業員数が増えれば増えるほど
(ソフトクリームを作ればつくるほど)、限界費用は、少なくなっていきます。

限界費用は、少なくなるということは、1個当たりの単価が、下がることを意味します。



つまり、ソフトクリームの販売単価を下げない限り、
信長くんのビジネスは、「儲かる仕組み」ということになります。





できるビジネスマン

It's hard, being a business man. / Banjo Brown




ただし、「儲かる仕組み」といっても、「ある一定」の生産のところまでです。
次回以降のブログでは、信長くんのビジネスにおける、「儲けの限界点」を考えてみましょう。

(つづく)






2012年11月26日月曜日

利潤最大化と費用 その4


固定費用と可変費用と総費用



前回のブログより、企業(会社)の最大の目的は、
「利潤の最大化」であることを説明しています。
そして、その利潤とは、次のような数式で算出することができます。


  • 利潤 = 総収入 - 総費用


この数式のうち総収入は、簡単に求めることができます。
生産数量(販売数量)×販売価格です。
しかし、総費用については、総収入のように簡単に求められません。



なぜなら、ひとくちに総費用といっても、


  1. 固定費用(平均固定費用)
  2. 可変費用(平均可変費用)


という、2種類の、異なる性質の費用があるからです。
これらは、生産量が変化し、均した(ならした)ときに、異なる動きをします。
実は、この両者の異なる動きが、費用と利潤の話を、複雑にしています。



といっても、これらのことを「教科書的」に説明すると、
ブログのアクセス数や、平均滞在時間が、減少しそうです(苦笑)
簡単なケーススタディをしながら、説明していきましょう。




ソフトクリーム

RIMG1471 / vaboo.com


信長くんのソフトクリームビジネス(その2)



信長くんのソフトクリーム屋さんでは、
下記のような生産関数(従業員数と生産量の関係)があります。
また、信長くんは従業員1人当たり、1日8,000円の賃金を支払っています。



その他の、可変投入物(牛乳、コーンなどの変動経費)には、
ソフトクリーム1個につき、50円がかかります。10,000円が必要です。



信長くんのソフトクリームビジネス 可変費用と総費用






基本問題の確認



【問1】

110個のソフトクリームを作るときの、可変費用総費用は、いくらになるでしょうか?
また200個の場合は、それぞれいくらになるでしょうか?





ヒント1:問題文にあるワークシートの、ピンク色の部分について、計算をしましょう。



応用問題にチャレンジ



【問2】

信長くんのソフトクリームビジネスにおける、
可変費用曲線総費用曲線を、図示してください。






ヒント1:問題文のワークシートの、可変費用総費用を取り出して、グラフを作成しましょう。



【問3】

はじめの220個を生産するときの、限界費用はいくらでしょうか?
次の400個を追加生産するときの費用は、いくらでしょうか?
それ以降の、追加生産の限界費用をすべて算出してください。





ヒント1:下のワークシートを参考にして、青色の限界費用の部分を計算しましょう。



信長くんのソフトクリームビジネス 可変費用と総費用と限界費用







(答えは次回のブログで!)

2012年11月25日日曜日

利潤最大化と費用 その3


問題のおさらい




前回のブログでは、3つの問題を出題しました。
問題のポイントは、以下の通りです。



  1. 問1 固定投入物可変投入物の区別
  2. 問2 生産関数の図示
  3. 問3 限界生産物の変化について



基本問題の確認




【問1】答え



  • 固定投入物→ソフトクリーム製造機、冷蔵庫
  • 生産関数→牛乳、コーン、カップ、トッピング、労働力


管理会計的な言い方をすると、前者は固定費用、後者は可変費用と言います。
「長期的」に考えれば、信長くんは、製造機や冷蔵庫の台数を、変えることができます。
ですが、ここでは話を分かりやすくするために、「短期的」に考えてみましょう。



【問2】答え





信長くんのソフトクリームビジネス 生産関数グラフ





信長くんのソフトクリームビジネス 生産関数グラフ




上の図の通りです。労働の投入量が、増えるに従って、
ソフトクリームの生産個数の増加率が鈍るようなグラフができます。
労働の投入量と生産個数は、直線的な正比例の関係にはなりません。



応用問題にチャレンジ!



【問3】答え





信長くんのソフトクリームビジネス 限界生産物の計算



信長くんのソフトクリームビジネス 限界生産物の計算



問2の答えのように、限界生産物が次第に減少するのは、
「限界収穫逓減の法則」が、働くためです。



答えの解説





信長くんのソフトクリーム屋さんの場合、
固定投入物として、ソフトクリーム製造機と冷蔵庫の台数は、固定されています。



ということは、
ソフトクリームを即売するにしても、作り置きにするにしても、
販売できる量には、おのずと限界があります。



労働の投入量が少ないとき、固定投入物が「遊んでいるため」
生産量を増やすことは、比較的簡単です。



ですが、従業員が増えるに従って、それに対応する製造機や冷蔵庫は、
フル稼働の状態に近づきます。また台数も固定されているため、
生産数量の増加率は鈍ります



従って、労働投入量を1単位増加させたときの限界生産物
(従業員を一人増やしたときの、ソフトクリームの生産個数)は、
次第に減少していくことになるのです。
(つづく)









2012年11月24日土曜日

利潤最大化と費用 その2


ブログ界初(?)出題形式のブログ



前回のブログのポイントは、次の通りです。

  1. 会社(企業)は利潤最大化のために存在する
  2. 総収入- 総費用 = 利潤
  3. 総収入の計測は簡単
  4. 総費用の計測は複雑


このうち、最も大切なポイントは、4番目です。
ですが、この点について、管理人が「教科書どおり」の説明をすると、
ブログのアクセス数や滞在時間が、稼げなくなると思います(笑)



それをやってしまうと、無機質な専門用語のオンパレードになって、
初学者の方のやる気を、削いでしまうでしょう。



そこで、「利潤最大化のための費用を考える」シリーズでは、
簡単なケーススタディにもとづいて、企業の利潤最大化とその費用について、
考えてみることにします。


信長くんのソフトクリームビジネス



ソフトクリーム

ソフトクリームタイム!! / acidlemon



信長くんは、公園の近くで、ソフトクリーム屋さんを営んでいます。
信長くんのお店では、3台のソフトクリーム製造機を設置しています。



この製造機以外に、ソフトクリームを作るための投入物として、
冷蔵庫・コーン・カップ・トッピング・労働力を持っています。
これらの投入物を調整すると、1日につき、信長くんのお店では、
次のような、生産関数(表)が得られます。



信長くんのソフトクリームビジネス 生産関数







基本問題の確認



【問1】

問題文より、ソフトクリームをつくるときの、固定投入物可変投入物を分けてください。






ヒント1:固定投入物とは、数量が一定で調整ができない投入物のことを指します。
ヒント2:可変投入物とは、数量を調整することができる投入物のことを指します。






【問2】

横軸に労働投入量、縦軸にソフトクリームの生産個数をとって、総生産曲線を図示してください。








ヒント1:労働投入量小→傾き小、労働投入量大→傾き小の曲線となります。




信長くんのソフトクリームビジネス 生産関数グラフ






応用問題にチャレンジ!


【問3】

上の表に基づいて、1人目と、2人目の労働者の限界生産物は、いくらかを答えてください。
また、投入する労働者が増えるに従って、限界生産物が減るのは、なぜでしょうか?










ヒント1:限界生産物とは可変投入物を追加生産することで、生じる総収入の変化額のことです。
ヒント2:下の表を参考にして、ワークシートの、C列の計算をしてください。




信長くんのソフトクリームビジネス 限界生産物の計算





(答えは次回で!)











2012年11月23日金曜日

利潤最大化と費用 その1


何のための企業か?



この世の中には、数え切れないくらい企業が存在します。
形態でいえば、株式会社、有限会社、協同組合、地方公共団体、
公営企業、社会福祉法人、宗教法人、個人商店など、
家から、一歩外に出れば、無数の企業が存在することを目にします。



この中で、営利の社団法人である「株式会社」(いわゆる会社)は、
何のために存在するのでしょうか?



もちろん、代表者が自社の商品やサービスそのものが、大好きだからかもしれません。
その商品やサービスを、より多くの人に使ってもらいたい、ということも考えられます。



しかし、最大の理由は、「お金を儲けたい」、ということでしょう。
経済学的な立場で申し上げると、「企業は利潤の最大化をはかる」、というのが目的となります。




大手町ビル街

/ HOSONISM



総収入・総費用・利潤



それでは、ここでいう「企業の利潤」とは、何を指すのでしょうか?
製パン業を例にとって、考えてみましょう。利潤を表すためには、まず2種類のお金が登場します。

  • 総収入(パンの販売によって得られた金額)
  • 総費用(小麦粉・塩・砂糖・労働者に支払う賃金)

そして、利潤総収入から総費用を差し引くと、求めることができます。



総収入-総費用 = 利潤




計算機(電卓)アプリ

計算機(電卓)アプリ / yto


総収入と総費用の測り方



さらにつっこんで考えてみましょう。
会社が、利潤を最大化するためには、総収入総費用の測り方を
詳しく観察する必要があります。



「電卓」で遊ぶ

新しいおもちゃ「電卓」で遊ぶ(2011/11/26) / yto




まず、総収入は、簡単に測ることができます。
もし、1斤1,000円のパンを10斤売れば、10,000円の総収入となります。



総収入  →→→ 生産物の数量×販売価格



ところが、費用の測り方は、少し複雑になります。
総収入のような、単純な掛け算で測ることはできません。



総費用  →→→ ???



次回以降で、この費用の測り方について、考えてみましょう。
(つづく)




2012年11月19日月曜日

限界収穫逓減の法則その6


【祝】ブログ連載50回記念【祝】




数えてみたら、このブログを開設して、おかげさまで記事連載が、50回に到達しました。
といっても、管理人は、大変ものぐさな性格なので、
特別に「記念行事」や「特別ネタ」を、用意しているわけではありません。





祝賀会

祝賀会 / june29




ただ、この「限界収穫逓減の法則」シリーズでは、
経済学について「陰鬱な科学」とか、飢餓や疫病(と戦争)によるとか、
暗い記事をUPして、さんざん煽ってしまったので、
最後は、これらを打ち消して、明るく締めようかと考えています(笑)




「他の条件を一定」としたとき限界収穫逓減が成り立つ




これまでのブログで、18世紀・イギリスの経済学者である、ロバート・マルサスは、
「人口論」で、限界収穫逓減の法則により、食糧の生産は、頭打ちになることを書いてきました。



しかも、その結論は、人口の増加ペースが、食糧の増産ペースを上回るため、
やがて、人口の増加は、飢餓と疫病(と戦争)になって抑制され、
常に貧困状態にあることが当然、という衝撃的なものでした。



ですが、人口研究の権威でもあった、マルサスの予測通りにはならず、
21世紀の人口は、18世紀の人口よりも、はるかに増加しています。


実は、マルサスの悲惨な予測には、一つの前提条件がありました。
それは、「他の生産要素を一定とすれば」、食糧の増産は、頭打ちになるということです。




生産要素の変化による「上方シフト」




マルサスが指摘した農業の「生産要素」を具体的に挙げると、以下になります。



  • 土地→耕地が広がり
  • 資本→土地や機械を購入するための元手
  • 技術革新→農業機械の開発や品種の改良
  • 教育・訓練→人間による機械の操作や収穫方法の確立


もしこれらの生産要素の変化をグラフで表すと、
総生産曲線限界生産物曲線は、「上方シフト」が発生します。




総生産曲線の上方シフト



総生産曲線の上方シフト



限界生産物曲線の上方シフト



限界生産物曲線の上方シフト




2つのグラフは、確かに、限界収穫逓減の法則に従っています。
しかし、総生産曲線のグラフを見ると、全ての労働投入量において、生産量は増加しています。
また、限界生産物曲線は、全ての労働投入量において、1人当たりの生産量が、増加しています。




再考~マルサスの「人口論」



前回のブログ(リンク)でも、読者の皆様にマルサスが「人口論」で述べた主張が、
「ハズレ」なのか、「あたり」なのかを、お尋ねしました。
答えは、「半分ハズレ」で「半分あたり」です。



「ハズレ」については、直感的にお分かりになると思います。
当ブログを書いている私も、見ていただいている読者の皆さまも、
今もって生きているということが、その証拠です(笑)



「あたり」というのは、マルサスが、農業生産について、
「他の生産要素を一定」とした場合、2つの曲線の「上方シフト」は発生せず、
やはり、人口増加に比して、食糧増産が鈍化するということです。




経済学の役割



このように限界収穫逓減の法則は、他の条件を一定としたとき、
追加的な労働投入による生産量の増加率はやがて鈍化する
、ということを表します。




もっとも、他の経済学の命題がそうであるように、
それは、あくまで「他の条件を一定」としたときであって、
「条件」が変われば、限界収穫逓減の法則による曲線の傾きは、変化します。




先に、経済学について「陰鬱な科学」であると申しましたが、
決してそれにとどまるものではありません。



自動車の大量生産方式、大規模な流通網の確立、インターネットの発明などは、
全て技術革新により、それぞれの生産量を増やしてきました。
その結果、人間の生きる可能性を、広げてきたものです(もちろん弊害も出しましたが)。




味の素物流

味の素物流 / Lucy Takakura




経済学という科学は、曲線の傾きを通して、「人間の生きる可能性」を
考察するための科学であるとも言えるのです。
(限界収穫逓減の法則シリーズ終わり)




参考文献:


ロバート・マルサス 人口論 (中公文庫)人口論 (中公文庫)



人口論 (中公文庫)


フレデリック・P・ブルックス,Jr 人月の神話人月の神話



人月の神話




2012年11月18日日曜日

限界収穫逓減の法則その5

「人口論」と「北斗の拳」




前回のブログでは、飢餓と疫病(と戦争)で、人口の増加が、頭打ちになるという、
アニメ・「北斗の拳」さながらの、すさまじい結論で、記事を締めくくりました。



この結論は、19世紀のイギリスの経済学者、ロバート・マルサスと言う人物が、
あらわした「人口論」という著書にもとづいています。



「北斗の拳」では、確かに人類は、飢餓と疫病(と戦争)に苦しんでいましたが、
マルサスの結論は、本当に正しかったのでしょうか?





戦争

Outdoor Exhibition / d'n'c



人口論「半分ハズレ」のワケ



マルサスの「予言」に対する答えは、「半分ハズレ」で、「半分あたり」と言うのが、
現代のミクロ経済学上の評価です。




「半分ハズレ」というのは、直感的に分かると思います。
というのは、マルサスよりもずっと後に生まれた管理人も、
当ブログを読んでくださっている読者の方も、今もって生き残っているからです。
19世紀の世界と、21世紀の世界と比べて、人口は飛躍的に増加しています



では、なぜマルサスは、結論を「ハズして」しまったのでしょうか?
ちなみに、マルサスは「人口論」という名前の本を出版するぐらいで、
今もって人口研究に関する権威です。




>東京大学図書館

東京大学図書館 / 柏翰 / ポーハン / POHAN




人口論「半分あたり」のワケ



それでは、「半分あたり」について、現代の経済学者に、「ご説明」を願いましょう。



"おそらく18世紀のフランス農民たちがピラミッド時代のエジプト農民よりも良い暮らしをしていたということではない。だが18世紀以降の技術進歩が、あまりにも急速だったために、収穫逓減が引き起こす問題を打ち消してしまったのだ"

ポール・クルーグマン「クルーグマンミクロ経済学」東洋経済新報社(P221)



クルーグマンの説明を補足すると、以下のようになります。



18世紀になって人間が、紀元前のピラミッド時代に生きた人間よりも、ぜいたくなものを
たくさん食べはじめて、人口増加の危機が叫ばれたわけではありません。



紀元前から18世紀までの「ゆくっりとした」農業技術の進歩では、
いずれ、食糧の増産が、人口の増加に追いつかなくなるということが、マルサスの予想でした。




ただ、18世紀以降の農業の技術進歩が、
マルサスの人口増加の予想をはるかに超えるものであったため、
限界収穫逓減の法則による食糧不足の問題を、解消してしまったのです。






農業

CIMG1953 / max.takaki




次回では、技術進歩が打ち消した限界収穫逓減の法則について考えてみましょう。
経済学は、単なる「陰鬱な科学」ではありません!!!
(つづく)










2012年11月17日土曜日

限界収穫逓減の法則その4


百貨店外商と限界収穫逓減の法則



前回のブログで、個人的体験にもとづき、
百貨店の外商営業と、限界収穫逓減の法則の関係を、書かせていただきました。



未開拓の顧客層に営業をかけた当初は、生産量(売上)の伸び率は、すさまじいものです。
しかし「掘り起こし」が行きわたると、生産量(売上)の伸び率は、鈍化します。



厳しい限界収穫逓減の「現実」




限界収穫逓減の法則その1では、かつてIBM社でソフトウェアの開発を担当していた、
フレデリック・ブルックス,Jrが、登場しました。




そのブルックス,Jrが示した限界収穫逓減の法則による、プログラムコード生成の現実は、
さらに厳しいものでした。その考え方をグラフで表すと、以下の通りになります。








ブルックス,Jrが示す限界収穫逓減の法則




ブルックス,Jrが示す限界生産物曲線










なんと、プログラマー(労働投入量)の数が、
ある一定数を超えると、出来上がるプログラムコード数が、減少していくのです。
1人当たりのプログラムコードの生成数も、プラスからマイナスに転じます



ブルックス,Jrの著者、「人月の神話」の、復刻版書評を書いた人が、
上の2つのグラフについて、的確な表現をしています。



"プログラマーたちの強度作業にはどうしても必要になる費用がある。チームのやり取りのメンバーは会議に出席したり、プロジェクトの計画案を練ったり、電子メールのやりとりをしたり、プログラムの接続方法について相談したり、パフォーマンスのチェックに労力を使ったりといった具合に『時間を浪費』することになる(中略)マイクロソフト社では、チームのなかに少なくとも1人は、他のメンバーが着るTシャツのデザインに専従する人員がいる、ということにもなりかねないのだ"

ポール・クルーグマン「クルーグマン・ミクロ経済学」東洋経済新報社(P223)



つまり、ソフトウェア開発チームの人数が、多くなりすぎると、
メンバー間での、間接的なコミュニケーションに時間が費やされ、
本来行うべき、プログラミング業務が出来なくなるというこです。



経済学は「陰鬱な科学」か?




限界生産物が逓減していくということは、ブルックス,Jrの洞察によって、
はじめて発見されたことではありません。


以前登場した、18世紀・イギリスの経済学者、ロバート・マルサス
「人口論」でも、限界収穫逓減の法則に基づいた、食糧危機について、やはり論じていました。



「人口論」の結論を述べると、限りある土地の下では、
農業生産量は、「倍数」でしか増えないの対し、人口は、「累乗」で増加してしまうということです。



やがて、飢餓と疫病(と付随的に発生する戦争)による、人口抑制が行われたときに、
人類は生き残り、常に貧困状態にあるのが当たり前、というすさまじい結論です。





台風一過

台風一過 / amika_san




時おり、「経済学は陰鬱な科学である」と揶揄されることがあります。
それは、上記のような悲惨な結果について、危惧された言葉である、と考えられています。
しかしながら、このようなマルサスの結論は、正しかったのでしょうか?
(つづく)











2012年11月16日金曜日

限界収穫逓減の法則その3


限界生産物を「計算式」で表してみよう!



前回のブログで、数値例を用いて、限界生産物について考えてみました。




プログラムコードの総生成量と限界生成量



プログラムコードの総生成量と限界生成量




限界生産物(ここでいうプログラムコードの限界生成量)とは、
「もう1単位労働力を追加したときの生産量の増加分」を表します。
この「増加分」を、計算式で表すと以下の通りです。



労働の限界生産物=生産量の変化/労働投入量の変化=限界生産物
(限界生産物MPL=⊿Q/⊿L)



なぜ限界生産物を求める計算式があるのか?




(数値例)では、プログラマー(労働力)が一人ずつ投入された場合の、
データを表しています。確かに5人、6人、7人と一単位ずつ労働力が増えていくときは、
生産量の増分が、分かり易くで助かります。



現実には、40人から45人、そして60人など、
1単位ごとの、増分データが入らないときもあります。
そのようなとき、上記の計算式を使うと、生産物の限界生産物が求められます。



数値例から分かるように限界収穫逓減の法則とは、
限界生産物が、次第に減少することを、指すことになります。




「限界収穫逓減の法則」具体例




限界収穫逓減の法則について、個人的な体験にもとづいて、具体例を挙げてみましょう。



管理人は、以前ある百貨店の外商部に勤めていました。
最初に担当させていただいたのは、
それまでほとんど、対面営業を行ってこなかった顧客層でした。





百貨店の外商部

Isetan Tachikawa / Dick Thomas Johnson




この顧客層に、管理人が、営業を訪問や対面営業を行うことによって、
担当後、3カ月ぐらいは、この層における売上伸び率について、
前年比300%とか、250%とか、不景気なご時世に、ありえないくらいの
「数字」をたたき出していました。



もっとも、限界収穫逓減の法則に基づいて考えると、当然の結果です。
顧客層に労働(営業)をほとんど投入していなかったため、
当初の生産量(売上)の「伸び率」はすさまじいものになります。



ですが、3か月もたって労働(営業)が一巡すると、
限界収穫逓減の法則がある以上、「伸び率」は、
陰りを見せ始めます。外商を担当して1年近くになると、
売上伸び率は、いつも100%前後で、四苦八苦していました。



そこらへんから、既存顧客だけでは、営業ができないことに気づき始め、
新規顧客開拓に回ったのは、言うまでもありません(笑)
(つづく)















2012年11月11日日曜日

限界収穫逓減の法則 その2


「人口論」と「人月の神話」からみる総生産曲線





前回のブログで、時代も立場も異なる、2つの著書に見る、
共通性を通じて、問題提起を行いました。


  • ロバート・マルサス「人口論」
  • フレデリック・ブルックス,Jr「人月の神話」


マルサスは、19世紀のイギリスの経済学者で、
ブルックス,Jrは、20世紀のアメリカのソフトウェア技術者です。




そこで、当ブログで、いつも行っている、「グラフ式思考法」で考えてみましょう。
すると、以下のような、総生産曲線が出来上がります。



マルサスとブルックスJrの曲線





マルサスとブルックスJrの曲線







このグラフをよく観察すると、以下のような特徴が、挙げられます。





  • 労働投入量が少ないときは、傾きが大きい
  • 労働投入量が多いときは、傾きが小さい




つまり、労働投入量が変化するに従って、生産量の増加が鈍っているように見えます。



マルサスとブルックスの曲線の特徴(曲線の接線の特徴)




マルサスとブルックスの曲線の特徴(曲線の接線の特徴)







「微分」を思い出してみよう!





労働投入量が、追加的に変化しているときに、
生産量の増加率が、どれぐらい変化しているかを、分析するためには、
微分の概念が、非常に有効です。






トラクター、労働量の投入

Tractor / ototadana



ここでいう微分とは、dx/dyや⊿yなど記号を使った、計算式を展開することではありません。
単に「変化率を測る」ぐらいの、意味に置き換えてくだされば、結構です。
(微分に関する詳しいブログは、コチラ



その「変化率」をグラフにして表すと、次のような右下がりのグラフになります。
これを、限界生産物曲線と言います。



限界生産物曲線




限界生産物曲線





「数字」にして書き出してみよう!





先にあげた総生産曲線と、限界生産物曲線の、2種類のグラフが、
今回のテーマである、「限界収穫逓減の法則」のミソになります。




ブルックス,Jrのように、ソフトウェア開発における、プログラムコードを使った、
数値の例を用いて、限界生産曲線とは、どんな現象なのかを、確認してみましょう。



プログラムコードの総生成量と限界生成量




プログラムコードの総生成量と限界生成量




労働投入量、つまり、プログラマーを増やすに従って、
プログラムコードの総量は、確かに増加していますが、その増加量は、次第に鈍っています





プログラムコード、コンピュータ

4bit computer / torisan3500




この現象を、ミクロ経済学的に説明をすると、
「もう1単位の労働を追加したときの限界生産物は減少している」、という説明になります。




ここでいう限界とは、「追加的な」という意味に置き換えてください。
二重的な修飾で、日本語としてちょっとおかしい気もしますが、
経済学では、こういう言い方をするようです。
(つづく)
















2012年11月9日金曜日

限界収穫逓減の法則 その1


2つの古典的名著、「人口論」と「人月の神話」





唐突ですが、管理人は、最近、読書感想文ブログをはじめました。
書評ブログ、と言っていいかもしれませんが、「書評」と言うほど、
立派なもんでもないと思って、自分で「読書感想文」と呼んでおります。




こちらのミクロ経済学ブログに記事をUPするために、
それなりに、経済学とそれに関連する本を読んでいます。
管理人の習慣として、読んだ際に「読書帳」をつけていました。




最近、それが結構な量になってきましたので、
「もう1個ブログをはじめたら、どないやろ?」という
とりとめもない理由で、はじめております。




そういうわけで、今回の「読書限界収穫逓減の法則シリーズ」は、
読書感想文ブログ開設記念」といたしまして、経済学にまつわる2つの古典的名著、
「人口論」「人月の神話」を、紹介しながら、お話を進めていきたいと思います。





読書感想文

読書感想文1 枚目 / takamorry




ロバート・マルサスの「人口論」






"人口は、さまたげられないばあい、等比数列において、増大し、人間のための生活資料は等差数列において増大する"


ロバート・マルサス「人口論」中公文庫(P26)



この文章をかみくだいて、説明すると、このようになります




  • 人間の人口→幾何数級的に増える。10の2乗、10の3乗など、累乗で増加する。
  • 生活資料(食糧)→算術級数的に増える。10の2倍、10の3倍など、倍数で増加する。




ここから、ロバート・マルサスという経済学者は、
人間の人口は、食糧の増加よりも、爆発的に速いスピードで増加するため、
人類は常に貧困状態にあることが当然である、と結論づけています。




フレデリック・P・ブルックス,Jrの「人月の神話」





"ブルックス,Jrは、ある開発プロジェクトを担当するプログラマーの人数を増やしても、
それに比例してプログラム開発時間が短縮されるわけではないことに気付いた"

ポール・クルーグマン「クルーグマンミクロ経済学」(P223のコラムより)



フレデリック・P・ブルックス,Jrは、かつてコンピュータビジネスで、
隆盛を極めたIBM社の、開発マネージャーを務めていた人物です。




そのブルックス,Jrの「人月の神話」を、ごく簡単に説明すると、



「ソフトウェア開発の世界において、プロジェクト規模が、大きくなればなるほど、
どうして上手くいかなくなるんだろう?」



ということを述べています。




「人口論」と「人月の神話」の共通点





「人口論」が出版されたのは、1789年のイギリスです。
一方、「人月の神話」が出版されたのは、1975年のアメリカです。



それぞれの本は、食糧問題とソフトウェア開発をテーマとし、
発行された年も、200年以上異なるため、一見すると、関係がなさそうに見えます。




しかし、ミクロ経済学の限界収穫逓減の法則という概念にもとづくと、
意外な共通点が見えてきます。




当ブログ名物のグラフで、マルサスブルックス,Jrが、
主張していることを表すと、こうなります。



マルサスとブルックスJrの曲線







(つづく)